2020/03/30
ロックフェラー財団100RCに見る街づくりのポイント
サンフランシスコのレジリエント戦略4つのビジョン
上記の課題群には相互依存関係があります。全ての課題に共通する背景は、SF@1Mで表されている人口の増加です。サンフランシスコの経済的繁栄を持続させ、25年後に約16万人増加すると見込まれる人口を市の活力に変えながら、各種チャレンジに対応する必要があります。そのために掲げられたのは、次の4つのゴールです。
1)明日への計画と備え
ここでのキーワードは、「備え」「イノベーション」「投資」の3つです。地震や自然災害からの復旧を確実に実現するための「備え」を進めます。例えば、教育プログラムやテクノロジーを活用しながら、未来の世代に“共助”の大切さを伝えていきます。日本でいうところの緊急地震速報システムを実装する計画です。これは新たな「イノベーション」の種として期待されています。「投資」では、50年後の街の交通ビジョンを作成し、交通システムに効率的に投資します。
2)改善、軽減、適応
市内にある脆弱性の高い建物については改築を進め、地域における気候変動のインパクトを小さくしながら適応していくことを目指しています。1978年よりも以前に建てられた木造建築による建物を改修することで、18万人の市民の安全性を高めることができるとの試算があります。さらに、気候変動のインパクト軽減のために温室効果ガスの削減に取り組み、2050年までに1990年比40%削減を目指します。海面上昇に対応するために、ウォーターフロント地区の再開発、コミュニティヘルスプログラムの向上を掲げました。
3)今日、そして災害後の住宅供給を保証
サンフランシスコで地震が発生した場合、10万軒以上の住宅が全壊もしくは半壊すると試算されています。1906年のサンフランシスコ地震とそれに付随して起きた火災では、2万8000軒の住宅が全壊し、22万5000人が家を失いました。まずは地震に強い住宅の建設を進めること、地震発生時には極力自宅をシェルターとして使うことができること、それが無理な場合に備えて、市内の避難所の整備、といった内容を含めた計画を定めます。
4)市民のつながりを向上させコミュニティー力を高める
ここでは、人々のつながりを創出すること、サンフランシスコ市役所へのアプローチを容易にすること、そしてレジリエンス・リカバリーオフィスの新設を掲げました。市役所へのアプローチには、オンラインによる行政サービスへのアクセスが含まれています。2025年までに90%以上の申請をオンラインに移行したい考えです。コミュニティースペースとして、図書館のリノベーションも計画されています。
具体的な数値による評価
サンフランシスコのレジリエント戦略は、レジリエンス実現に向けた、長期的な視野を持った「プロセス」としての位置づけとなっている点が素晴らしいと思います。プロセスそのものが大切との考えは、レジリエンス概念をよく理解している証拠です。
レジリエント戦略全体で、地震や気候変動のインパクトへの対応を記述している点も特徴的でしょう。各ゴールにおいて、Key indicatorsと呼ばれる、数値による評価指標が掲げられています。例えば、ゴール①の「明日への計画と備え」では、市民で構成される災害対応チームを作り、2018年までに2000人の市民を訓練する、ゴール②の「改善、軽減、適応」では、2025年までに18万人の住宅を改築する、交通システムのエネルギー源を再生可能エネルギーに移行する――などです。環境に優しい街づくりを推進するカリフォルニアの都市らしく、環境に配慮しながら地震への備えを実現しようとしています。
ロックフェラー財団100RCに見る街づくりのポイントの他の記事
- One シドニーで一丸となった街づくり
- 適応、持続性、繁栄、埋め込みの4つのアクションプラン
- オンラインサービスを強化
- レジリエンスをプロセスとしてとらえる
- デジタルテックに着目したニューヨークのレジリエント戦略
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
-
民間企業の強みを発揮し3日でアプリ開発
1月7日、SAPジャパンに能登半島地震の災害支援の依頼が届いた。石川県庁が避難所の状況を把握するため、最前線で活動していた自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)の持つ避難所データを統合する依頼だった。状況が切迫するなか、同社は3日でアプリケーションを開発した。
2024/04/11
-
-
組織ごとにバラバラなフォーマットを統一
1月3日、サイボウズの災害支援チームリーダーである柴田哲史氏のもとに、内閣府特命担当の自見英子大臣から連絡が入った。能登半島地震で被害を受けた石川県庁へのIT支援要請だった。同社は自衛隊が集めた孤立集落や避難所の情報を集約・整理し、効率的な物資輸送をサポートするシステムを提供。避難者を支援する介護支援者の管理にも力を貸した。
2024/04/10
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月9日配信アーカイブ】
【4月9日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:安全配慮義務
2024/04/09
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方