2020/04/27
危機管理担当者として学ぶべき新型コロナウイルス感染症対策
PPEの組み合わせ(アンサンブル):アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)防護レベル
PPEを選択する過程では、適切なレベルの防護を確保するとともに、CBRNE災害活動に際して活動しやすいPPEの組み合わせと資機材を調和させなければならない。
例えば、シンプルな防護服の手袋や作業着と全面形マスク(またはセーフティゴグル)の組み合わせで、ある病原体物質(血液媒 体病原菌)への曝露防護には十分かもしれない。他方、陽圧式化学防護服、SCBA併用の完全密閉型スーツの選択は、蒸気、ガスまたは皮膚吸収する危険がある有害物質の粒子を取り扱う事案では、最低限の防護レベルと想定されている。
米国環境保護庁(EPA)は、CBR物質が関連している事案に使用される防護具のレベルを確立している。 レベルA、レベルB、レベルCおよびレベルDの4種類である。NIOSH、労働安全衛生局(OSHA)および米国沿岸警備隊(USCG)もこの防護レベルを採用している。このレベル分類は、アンサンブル作成を立案する際の着手点としても活用できる。しかし、各アンサンブルは最適なレベルの防護を確保するため、状況に応じて組み合わせなければならない。
今回の新型コロナウイルス感染症が発生した当初、消防の救急隊員はどのレベルが適切なのか?という質問があった。筆者は「レベルBとCの中間位のレベルが適切ではないか」と一部のコミュニティーに対して発言したが、その直後、オクラホマ州の救急隊員がレベルBで救急搬送している映像を見た。
紙幅の関係上、ここで全ての防護レベルの解説は割愛させていただくが、レベルBおよびレベルC防護の二つについては解説をしようと思う。
【レベルB】

レベルB防護では、自給式呼吸器(SCBA)または送気マスク(SAR)を装着することが可能なスーツが必要で、危険物質の飛沫からの防護を行う。このレベルの資機材としては、空気呼吸器、フード付き飛沫感染防御スーツ、インナー・アウター手袋、および化学防護ブーツが含まれる。この組み合わせは、最大級の呼吸器保護が必要な際に装着される。レベルBアンサンブルでは液体飛沫保護を行うが、化学物質蒸気やガスからの皮膚の保護機能は限られている。レベルBの化学防護服(CPC)には、完全密閉型・非密閉型両方がある。
レベルBアンサンブルは、以下の状況下で使用する。
●物質の種類および大気中濃度が把握されており、高レベルの呼吸器保護が必要とされ、低レベルの皮膚保護が必要な場合
●大気中酸素濃度が、19.5%(※日本では18%)未満あるいは23.5%を超える場合
●同定されてない蒸気またはガスの存在が検知機器で感知されているが、皮膚に有害な、あいは皮膚に浸透可能な物質が高い濃度で含まれていないことが分かっている場合
●液体または粒子の存在が確認されているが、皮膚に有害な、あるいは健全な皮膚に浸透可能な物質が高い濃度で含まれていないことが分かっている場合
【レベルC】

レベルC防護は、呼吸器保護のための装備がレベルBとは異なっている。レベルCは、全面形または半面形のろ過式呼吸用保護具、フード付き飛沫防護服、インナー・アウター手袋、化学防護ブーツのコンビネーションで構成されている。
緊急対応要員は、物質が同定され、計測され、かつ現場指揮官(IC:Incident Commander)によって承認されていなければ、この防護レベルを使用することはできない。全てのろ過式呼吸用保護具および電動ファン付き呼吸用保護具は前段で述べた適合条件を満たしてなければならない(つまり、物質が同定され、適切なフィルターを備え、大気中酸素濃度が19.5(※日本18)~23.5%の間で、環境中大気はIDLHではないという状態)。このレベルのPPEを使用する際には、定期的な環境モニタリングが必要となる。
レベルCアンサンブルは、以下の状況下で使用される。
●大気汚染物、液体飛沫、または直接の接触により、露出した皮膚に副作用をもたらすことがなく、かつ皮下吸収されることがない場合
●大気中有害物質の種類が同定されており、濃度も測定され、不純物除去のためのろ過式呼吸用 保護具が使用可能な状態
●ろ過式呼吸用保護具使用のための基準が満たされている
●化学物質の大気中濃度が、IDLHレベルを超えない。大気中の酸素濃度19.5(※日本18)~ 23.5%の間
PPEの詳細については、説明しなければならないことが多岐にわたり膨大な情報量になってしまうので、詳しくは弊社が出版している「消防業務エッセンシャルズ第6改訂版」をぜひ参照していただきたいと思う。
次回の連載では、院内感染を必要以上に発生させないために重要な動線管理を含む総合的な「ゾーニングのマネジメント」について解説する。
危機管理担当者として学ぶべき新型コロナウイルス感染症対策の他の記事
- クラスターを最小限に抑えるゾーニング・マネジメント
- 個人用保護具(PPE)は武器である
- パンデミックの被害を最小限に留める
- 心の非常スイッチをONにせよ
- 検証し、将来に備えろ
おすすめ記事
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/08/26
-
-
ゲリラ雷雨の捕捉率9割 民間気象会社の実力
突発的・局地的な大雨、いわゆる「ゲリラ雷雨」は今シーズン、全国で約7万8000 回発生、8月中旬がピーク。民間気象会社のウェザーニューズが7月に発表した中期予想です。同社予報センターは今年も、専任チームを編成してゲリラ雷雨をリアルタイムに観測中。予測精度はいまどこまで来ているのかを聞きました。
2025/08/24
-
スギヨ、顧客の信頼を重視し代替生産せず
2024年1月に発生した能登半島地震により、大きな被害を受けた水産練製品メーカーの株式会社スギヨ(本社:石川県七尾市)。その再建を支えたのは、同社の商品を心から愛する消費者の存在だった。全国に複数の工場があり、多くの商品について代替生産に踏み切る一方、主力商品の1つ「ビタミンちくわ」に関しては「能登で生産している」という顧客の期待を重視し、あえて現地工場の再開を待つという異例の判断を下した。結果として、消費者からの強い支持を受け、ビタミンちくわは過去最高近い売り上げを記録している。一方、BCPでは大規模な地震などが想定されていないなどの課題も明らかになった。同社では今、BCPの立て直しを進めている。
2025/08/24
-
-
-
-
ゲリラ豪雨を30分前に捕捉 万博会場で実証実験
「ゲリラ豪雨」は不確実性の高い気象現象の代表格。これを正確に捕捉しようという試みが現在、大阪・関西万博の会場で行われています。情報通信研究機構(NICT)、理化学研究所、大阪大学、防災科学技術研究所、Preferred Networks、エムティーアイの6者連携による実証実験。予測システムの仕組みと開発の経緯、実証実験の概要を聞きました。
2025/08/20
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方