(イメージ:Shutterstock)

前回の連載第4弾目では、“武器としてのPPE”の解説をした。今回はPPEの適切な取り扱い(健康上の問題点、正しい装着の仕方、正しい脱ぎ方、脱着の際の適切な場所と環境)を含めた総合的なゾーニングのマネジメントについて解説する。ゾーニングとは、CBRNE災害が発生した際の隔離および現場管理に用いられる手法で、自分自身と他者の安全確保をするための手段として最も重要な意義を持つ活動の一つである。

特に今回の新型コロナウイルス感染症では、自覚症状がないまま普通に来院し院内でクラスターを発生させているという厄介な問題が日々発生している。いわゆる“セルフ・プレゼンター”(現場で治療も除染も受けず自己判断で病院に直接来院し、医療措置を求めてくる人々)への対応策に苦慮している医療機関も多くあるのではないだろうか。そんな状況を憂慮して、今回はゾーニングの基礎知識について解説する。

PPEの限界と健康上の問題点

前回の連載でPPEに関する基礎知識について解説したが、たとえレベルCの防護服であっても装着している人間にはさまざまな身体的な負荷がかかる。呼吸用保護具とPPEの装着が物理的および心理的なストレスとなり、閉所恐怖症を発症することもある。着装する人員は精神的に健全で、感情が安定しており、肉体的にも健康でなければならない。これらPPEには、以下に挙げる重大な限界があることも理解すべきだ。 

・限られた視界:全面形マスクにより、周囲の視界が妨げられ、マスク内の曇りで全体の視野が 減少する。 
・通信能力の減少:全面形マスクにより、音声による意思の疎通が減少する。 
・重量の増加:型により、呼吸用保護具は約11kgから16kg(25から35ポンド)の重量を増すことになる。 
・動作が妨げられる:重量増加により、装着者の動作性が制限される。 
・酸素レベルが不十分:ろ過式呼吸用保護具は、IDLHや酸欠の環境下では装着できない。 
・特定の化学物質:ろ過式呼吸用保護具は、特定の化学物質のみを保護できる。有効な吸収缶などの種類は、保護対象の化学物質によって異なる。 
・化学物質の限界:あらゆる危険物質に万能なPPEは存在しない。

その中でも特に装着者には“ヒートストレス”発生のリスクを増大させるので、総合的なゾーニングのマネジメントを考える上でも対応者の安全を確保するための大切な「高温度対策」について補足したいと思う。

・水分摂取:十分な量の水や電解質補強ドリンクを飲むことで、脱水症状を避けることができる。15~20分ごとにおよそ200ミリリットル(7オンス)の水分を摂取する方が1時間に一度、大量の水分を取るよりも推奨される。仕事前は冷たい飲み物がよい。しかし、活動中または活動後に極度な高温の環境では、室温の飲み物の方が体に対して低刺激であるという点で適している。バランスの良い食事によって、けいれんを回避するだけの十分な塩分が取れる
・空冷:長袖の綿下着や同種類の衣類は体への自然換気を促す。PPEを脱衣することにより、空気の流れによって汗が蒸発して体温を下げることができる。風、うちわ、扇風機やミストなどで、空気の流れを発生させる。しかし、外気温と湿度が高い場合は、空気の流れによる効果は低い
・氷による冷却:体温を下げるために氷を使用する。この方法の注意点としては、直接の接触は皮膚にダメージを与えると同時に、急激な体温低下もまた害になることがある。氷は短時間で溶けることも覚えておくこと。氷冷却ベストも存在する
・水による冷却:体温を下げるために水を使用する。水(汗も同様)の蒸発により、肌が冷える。移動式のシャワーやミスト設備、または蒸発冷却ベストを準備する。水冷却は湿度が上がり 水温が上がると効果は低くなる
・休憩/リハブ所:休憩のための日影、ミスト、空調設備などを備えた場所を提供する
・活動ローテーション:高温環境下に曝される、または困難なタスクを行っている対応者を定期的にローテーションする
・適切な飲み物:活動の前にアルコール、コーヒー、またカフェイン入りの飲み物は避ける。これらの飲み物は、脱水状態や高温障害の状態へと導きやすい
・健康な身体:身体的な健康を保つこと

他にも「低温障害」「リアルタイムの健康モニタリング」「緊急時の安全手順」「正しい装着の仕方」「正しい脱ぎ方」などを考慮しなければならないが、誌幅の関係上割愛する。詳しくは筆者に個別にご相談いただければと思う。