2020/05/01
企業をむしばむリスクとその対策
□対策のポイント
PCR検査は、陽性陰性が判明するまでに1、2日のタイムラグが発生しているといわれています。では、陽性が判明した日から前3日間の検査件数の移動平均(当該日より前3日間の検査件数の単純相加平均)から、翌日の患者数の罹患率を出すとどうなるでしょう。
以下がそのグラフです。

これを見ると、患者数、検査数ともに少なかった1、2月に例外的に罹患率50%以上だったときがありました(1月30日に50%、2月15日に59%)が、それ以外では、3月20日ごろをめどに罹患率のフェーズが変わってきていることが読み取れます(3月20日までは数%程度、20日以降は20%程度)。3月前半に比べ罹患率は倍以上になっている状態で、現段階(4月22日)においては、まだまだピークアウトにはほど遠い状態であること判断できるでしょう(注:移動平均から見た場合のみの筆者の独自判断)。
ここが、緊急時のリスクコミュニケーションの大きなポイントです。
リスクコミュニケーションは、企業や団体がリスクに関する情報を開示することのみと捉えられがちですが、企業がリスクとして認識している情報を共有することにより、ステークホルダーからの意見や考えを収集することも大きな目的になります。
上記の場合、東京都は単純に日々の患者数や検査件数と公表するだけでなく、当該日の患者数に至った検査人数や件数の実態も併せて公表する必要があるのではないかと思います。最前線の医療現場では混乱していることが公表に至らない要因であることは容易に想定でき、そのような中で、陽性に至った患者がいつの検査を受けてのものだったのか、までなどとても追えない、という意見に理解できる部分もありますが、もしそうであるなら、緊急時のリスクコミュニケーションとしては不十分であると言わざるを得ません。
ステークホルダーである都民が正確に情報を分析し、都に情報提供ができ、それにより東京都のリスクマネジメントに生かすことこそが正しいリスクコミュニケーションなのです。
国や自治体(もしくは企業)も、ただ単純に数字を開示して「情報発信を行っている」ということではなく、その数字を基にどのような判断が成り立つのかまでを公表することが、リスクコミュニケーションを行う際の当事者の責任だと言えます。
正しいリスクコミュニケーションとは、リスクに関する情報の開示と収集により、以下の効果を期待して、リスクマネジメント活動の充実を目指していくものなのです。
①新たなリスクの発見や特定のための情報収集
②ステークホルダーが被害を受ける可能性がある場合の、その予防または低減
③誤解や理解不足によるリスク情報の混乱の予防
④誤解や理解不足によるリスクの拡大の予防
今回のテーマ:「経営者・管理職」における戦略リスク

企業をむしばむリスクとその対策の他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方