2017/07/11
災害から命を守れ ~市民・従業員のためのファーストレスポンダー教育~
防災・危機管理のディズニーランド
![](https://risk.ismcdn.jp/mwimgs/6/9/670m/img_69c32f3b5e53e2d6bb8d44aa61818d40329882.jpg)
2015年2月、筆者がまだ米軍に在籍していた時に、経産省の国際産学連携拠点に関する委員会に招聘され「総合防災教育拠点整備の必要性」について提言する機会に恵まれた。一言で表すと、福島復興の施策の一つとして福島に「防災・危機管理のディズニーランド」を作ったらどうだろうという提言である。早いもので、あれから既に2年以上が経過しているが、2016年3月11日には「福島イノベーション・コースト構想推進企業協議会」が設置され、現在は103社の企業が本協議会に参加し、2020年をマイルストーンとした「浜通り」地域の復興に向けた取り組みが現在進行形で動いている(http://bcics.jp/)。また昨年度は国の補助事業として「実現可能性調査」を実施し、当該プロジェクトを実現するための具体的な計画についても本格的な議論が始まっている。
「なぜ防災がディズニーランド?」と思う方のために、筆者の考えをもう少し掘り下げて聞いて頂きたい。私たちはディズニーランドに行くと「ワクワク」「楽しい」という感動を得ることができる(筆者もディズニーランドは大好きである)。防災に対し「ワクワク」「楽しい」はもしかしたら不謹慎と考える読者の方もいらっしゃるかもしれない。しかし、前述した「自信と勇気」を得ることができたら、感動するという心理状態になるプロセスは同じだと筆者は考えている。事実、過去に何回か米国の施設で教育訓練を受けた経験があるが、筆者にとってはあたかもディズニーランドに行っているかの如く錯覚するほどの感動を味わった。
防災・危機管理に対する“負”のイメージを払拭し、ポジティブな防災を実現することが大切ではないだろうか。そのためには、あらゆる教育訓練が可能な施設とそこで実施される根拠に基づく標準化されたカリキュラムを整備する必要がある。ディズニーランドが成功している秘訣は、あの施設もさることながら、運営のためのしっかりとしたノウハウがあるからである。防災・危機管理のディズニーランドも成功の秘訣はそのコンテンツ次第だ。
今後、このプロジェクトがどのような形で実現されていくか読者の皆様には温かく見守っていてほしい。
女性の力
筆者はアメリカ国防総省の指針の元、消防・危機管理の任務に就いて約30年の間、現場の最前線で複雑化・多様化する災害対応の変遷を学んできて気が付いたことがある。それは私も読者の皆様と何も変わらない一人の人間だということだ。災害に対応するのは例えプロのレスポンダーだとしても人が対応するという意味では全く同じである。何が言いたいかというと、一般市民あるいは民間企業の方々でも正しい教育と訓練を受けて知恵と技術と勇気を得ることができれば災害時に貢献できることがたくさんあるという事である。助けられる側から助ける側にシフトすることが本当の意味での国土強靭化になると筆者は考えている。
その中でも、特に女性の力は大変大きい。第2章の災害心理学のチャプターでも解説したが、勇気の心と寄り添う心が災害対応時には必要になる。やはり女性はその面でも災害時に強い力を発揮する。また、過去に行ってきた市民救助隊または、民間事業者緊急対応チームの訓練でも優秀な成績を収めるのはだいたい女性である。つまり、女性にもっと防災・危機管理の世界へ進出してもらい、リーダーシップを発揮してもらいたいと思っている。そのことが最終的に一人ひとりの災害対応能力向上につながり、プロのレスポンダーが現場に来るまでの数日間を生き延びる術として、全ての人に浸透させる起爆剤的な要因になると確信している。
災害から命を守れ ~市民・従業員のためのファーストレスポンダー教育~の他の記事
- 最終回 日本が目指すべき防災・危機管理の姿(2)
- 第10章 日本が目指すべき防災・危機管理の姿 (1)
- 【第9章】 危険物/テロ災害対応 (2) (後編)
- 【第9章】 危険物/テロ災害対応 (2)(前編)
- 【第8章】 危険物/テロ災害対応(1)(後編)
おすすめ記事
-
-
-
3線モデルで浸透するリスクマネジメントコンプライアンス・ハンドブックで従業員意識も高まる【徹底解説】パーソルグループのERM
「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンとして掲げ、総合人材サービス事業を展開するパーソルグループでは、2020年のグループ経営体制の刷新を契機にリスクマネジメント活動を強化している。ISO31000やCOSO-ERMを参考にしながら、独自にリスクマネジメントの体制を整備。現場の業務執行部門(第1線)、ITや人事など管理部門(第2線)、内部監査部門(第3線)でリスクマネジメントを推進する3線モデルを確立した。実際にリスクマネジメント活動で使っているテンプレートとともに、同社の活動を紹介する。
2024/07/23
-
インシデントの第一報を迅速共有システム化で迷い払拭
変圧器やリアクタなどの電子部品や電子化学材料を製造・販売するタムラ製作所は、インシデントの報告システム「アラームエスカレーション」を整備し、素早い情報の伝達、収集、共有に努めている。2006年、当時社長だった田村直樹氏がリードして動き出した取り組み。CSRの一環でスタートした。
2024/07/23
-
「お困りごと」の傾聴からはじまるサプライヤーBCM支援
ブレーキシステムの開発、製造を手掛けるアドヴィックスは、サプライヤーを訪ね、丁寧に話しを聞くことからはじまる「BCM寄り添い活動」を2022年度から展開している。支援するのは小規模で経営体力が限られるサプライヤー。「本当に意味のある取り組みは何か」を考えながら進めている。
2024/07/22
-
-
危機管理担当者が知っておくべきハラスメントの動向業務上の指導とパワハラの違いを知る
5月17日に厚生労働省から発表された「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、従業員がパワハラやセクハラを受けていると認識した後の勤務先の対応として、パワハラでは約53%、セクハラでは約43%が「特に何もしなかった」と回答。相談された企業の対応に疑問を投げかける結果となった。企業の危機管理担当者も知っておくべきハラスメントのポイントについて、旬報法律事務所の新村響子弁護士に聞いた。
2024/07/18
-
基本解説 Q&A 線状降水帯とは何か?集中豪雨の3分の2を占める日本特有の現象
6月21日、気象庁が今年初の線状降水帯の発生を発表した。短時間で大量の激しい雨を降らせる線状降水帯は、土砂災害発生を経て、被害を甚大化させる。気象庁では今シーズンから、半日前の発生予測のエリアを細分化し、対応を促す。線状降水帯研究の第一人者である気象庁気象研究所の加藤輝之氏に、研究の最前線を聞いた。
2024/07/17
-
-
災害リスクへの対策が後回しになっている円滑なコミュニケーション対策を
目を向けるべきOTリスクは情報セキュリティーのほかにもさまざま。故障や不具合といった往年のリスクへの対策も万全ではない。特に、災害時の素早い復旧に向けた備えなどは後回しになっているという。ガートナージャパン・リサーチ&アドバイザリ部門の山本琢磨氏に、OTの課題を聞いた。
2024/07/16
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方