国民総ファーストレスポンダー化を目指して

冒頭に触れたように、第一ステップである知識=Knowledgeとは何だろうか? 筆者はこのKnowledgeがまず重要になると思っている。エビデンスベースに基づく根拠を証明できる知識が必要だということである。米国ではオクラホマ州立大学が1934年に国際消防訓練協会(International Fire Service Training Association)を設立し、消防・危機管理を学術的な見地から研究している。同大学のホームページでは、体系的な教育プログラムが日々更新されている。アメリカ陸軍のエリート校“ウエストポイント”を比喩してオクラホマ州立大学は“消防のウエストポイント”と呼ばれているほどだ。

数百に及ぶ教育訓練のためのコンテンツがすでに確立されているが、その中でも消防・危機管理の初級編である「消防業務エッセンシャルズ第6改訂版」という文献がある。1664ページに及ぶそのテキストブックは縦27.5cm、21.5cm、横厚さ5.2cm、重さ約4kgというボリュームたっぷりの、まさしく“消防の百科事典”に相応しい風体をしている。幸運なことに、この文献を日本語版として紹介できる機会に恵まれた。

■消防業務エッセンシャルズ第6改訂版(日本防災デザイン)
http://www.jerd.jp/p/item-detail/detail/i1.html

また、東京オリンピック・パラリンピックを3年後に控えた今、テロ対策については喫緊の課題として政府をはじめ、あらゆる民間組織も意識をし始めているが、その為の教育カリキュラムも、とても重要である。その為の教育の1丁目1番地が(最初に学ばなければならない必須の基礎編の意味)、米国運輸省が4年ごとに更新している”Emergency Response Guidebook”(危険物・テロ災害初動対応ガイドブック)だ。こちらの文献も日本語に訳し昨年11月より発刊を開始している。

 

■危険物・テロ災害初動対応ガイドブック2016年度版日本語版
http://www.jerd.jp/p/item-detail/detail/i8.html

少し横道にそれてしまったが、筆者が言いたいことは必ずしも米国流のノウハウだけを直輸入してそのまま運用するのではなく、そこに日本人の英知を融合させて“和魂洋才”の防災・危機管理のカリキュラムを確立していくことが「国民総ファーストレスポンダー」への登竜門だと考えている。 

前述の「防災・危機管理のディズニーランド構想」と平行して、一般市民、従業員のための防災危機管理教育のコンテンツを充実させて少しでも国民総ファーストレスポンダーを実現できるよう貢献していきたいと真剣に思っている。 

この連載を通して読者の方々にお伝えしたいことを以下にまとめる。

ひとつ、防災・危機管理に関する基礎的知識を得よ。
ひとつ、学んだ知識を技に変えよ。
ひとつ、その技を能力へ昇華せよ。
ひとつ、チームで活動せよ。
ひとつ、チームの安全が第一優先であることを忘れるな。
ひとつ、これらの教えを拡散せよ。

以上。

このシリーズの連載は今回で最後だが、長い間ご愛読して頂きここに改めて御礼申し上げる。謝辞。

また、新シリーズでお会い出来るのを楽しみにしております。

平成29年7月吉日

(了)

参考文献
・オクラホマ州立大学・国際消防訓練協会発行・「消防業務エッセンシャルズ第6改訂版」
・COMMUNITY EMERGENCY RESPONSE TEAM.Basic Training Instructor Guide.FEMA.DHS
・市民救助隊養成講座テキストブック
・リスク対策.com Vol37~41