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2000年代に入り、企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility: CSR)論議が活発になった。ここでの議論は、企業が社会の一員として、最低限果たすべき責任といった内容が中心となっている。例えば、脱炭素への努力、環境・人権・労働への配慮、ガバナンス態勢の整備、寄付・社会貢献活動などが該当する。換言すれば、企業利益と社会全体の利益はお互いに対立、相反する関係であるという前提の下で、社会的責任を果たすために、私的利益の追求を多少犠牲にせざるを得ないという考え方に立っていた。

2010年代に入り、持続可能性の概念に注目が集まりCSRに代わって持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)、ESG(Environment, Social, Governance)が人々の関心を集めるようになった。また、環境・社会問題と企業価値との関係についても、経済的価値(利益の獲得)と社会的価値(社会的課題の解決)を両立させる共有価値の創造 (Creating Shared Value: CSV)といった概念が提示された。

CSR活動においては、環境破壊や、貧困、格差、労働問題といった環境・社会問題を、企業にとってのコスト、制約と捉えられてきたため、本業の外側で対応する課題として位置づけられた。いわば、企業が社会から信頼を損なわないための基盤といった捉え方であった。しかし、CSVの考え方をとるならば、例えば、社会問題が深刻化するほど市場やサプライチェーンが不安定化し、長期的には企業の競争力自体が損なわれることとなる。そこで、企業の競争力向上と社会的価値の創出は対立するものではなく同時に実現すべきものであるという考え方に転じることとなる。つまり、環境・社会問題を外部コストとして捉えるのではなく、価値創造の源泉として捉える発想を意味する。健全な自然環境、安定した地域社会、健康な労働力などは企業の持続的な価値創造にとって不可欠な企業活動の前提条件となる。無尽蔵に利用可能な状況にあると考えると、その恩恵は意識されることは少ないが、有限で希少な価値であると認識せざるを得ない状況は、企業活動との依存関係の再確認、その劣化に対する保全の重要性を意識させられることとなった。