糸魚川静岡構造線断層帯と直接の関係はない

―― 北アルプス南部は「糸魚川静岡構造線断層帯」に近く、不気味な感じがします。国は同断層帯の中北部区間について、今後30年間の地震発生確率を最大30%と予測していますが、今回の地震が大地震につながる可能性はないのですか。
可能性を完全に否定するわけにはいきませんが、過去3回の群発地震をみると、離れた場所の地震につながっている例はなさそうです。今回は北アルプス南部に限定的で、徐々におさまっていくと思います。

ただし、松本市など周辺の都市が揺れやすい場所にあるという事実は引き続き変わりません。今回の地震で糸魚川静岡構造線断層帯にたまっている歪みのエネルギーが解放されたことにはまったくならない。今回のような規模の地震が山の中で起こったことで、気を引き締める機会になったのではないかと思います。

―― 現在、房総半島や東京湾など、全国的に地震が多くなっていることも気になります。
そうですね。房総半島や東京湾の地震は、北アルプス南部とは違うメカニズムによって起こっています。海洋プレートが日本列島を押していることは共通要因ですが、そこに地域的な要素が加わって地震が生じる。全国で発生している地震が連動しているという理由は、見つけられません。

地域特性によって地震と被害の起こり方は違う

―― 今後、どのような備えが必要でしょうか。

山腹崩壊も確認されている

まず、地域に独特の事情があることを知ってほしいと思います。例えば、今回の北アルプス南部のような急峻な山岳部で地震が起こると、出入り口が閉ざされ、外に出てこられなくなるおそれがある。もちろん登山道も寸断されます。

一帯は観光地ですから、観光客への対応も考えておかないといけない。周辺の都市ではヘリコプターによる人の移送も必要になります。

地域の特性によって、備えは一律ではありません。自分が活動している場所の自然状況と社会状況をはっきりさせたうえで、必要な対策をしておくことが重要です。

避難のあり方も同様で、新型コロナウイルスの流行期には、自然災害が起きた時の避難と避難生活を避難所だけでカバーすることはできないでしょう。避難のあり方も、考え直す時なのだと思います。 (談)

 

信州大学全学教育機構
大塚勉教授

信州大学全学教育機構教授。信州大学地域防災減災センター連携教員。専門は地質学。信州大学講師、助教授を経て2008年から全学教育機構教授。フィールドワークの経験を生かし、山岳地域の活断層の研究などに力を入れている。

本記事はBCPリーダーズ6月号に掲載しています。BCPリーダーズ6月号の内容は下記をご覧ください。
https://www.risktaisaku.com/category/BCP-LReaders-vol3/