2020/06/22
ロックフェラー財団100RCに見る街づくりのポイント
シドニーのレジリエント戦略の5つの方向性
シドニーのレジリエント戦略は、“レジリエント”という一つのビジョンに基づいて、五つの方向性(スローガン)と、それぞれの方向性に計35のアクションが定められています。アクションには、中心的役割を果たすフラッグシップアクションがあり、それをサポートするアクションと、関係性の高いアクションの三つに分けられています。ここでは、各方向性と、フラッグシップアクションをご紹介します。
【五つの方向性とフラッグシップアクション】
①人々が中心の街
市民や地域コミュニティーが、政策形成の中心となることを目指します。教育や雇用の機会も全ての人に平等に行き渡ることが理想の未来像です。
<フラッグシップアクション>
シドニーが抱えるショックとストレス要因を理解し、コミュニティーのニーズを明らかにするためのワークショップの実施と、将来の行動計画を策定、ロックフェラー財団が作成したさまざまなツールを活用。
②異常気象とともに生きる
シドニーがこれからも異常気象に襲われるとしても、人々の暮らしの質を落とさずに適応していくことを目指します。グリーンスペースへのアクセスを確保します。
<フラッグシップアクション>
最もリスクの高い熱波に対するアクションを促す。家や道路を冷やす取り組み。エビデンスに基づいた取り組みにするため、新しい研究プログラムを立ち上げ。センサーの活用、日陰面積の拡大などを計画。
③シドニー市民としてのコミュニティーを強くする
以前ギリシャ・アテネのレジリエント戦略をご紹介した時にも同様のスローガンが掲げられていました。シドニー市民としてのアイデンティティーの強化を目指します。
<フラッグシップアクション>
ソーシャルコーヒージョンと幸福度の測定。これまで社会的孤立や幸福度の測定には様々な組織が関与したが、縦割りでバラバラだったため、横串の取り組みに昇華。測定の考え方やツール、報告方法の統一化を図る。
④リスクに備える
市民、市内の企業や組織などが等しくシドニーが抱えるショックとストレス要因)リスク)を理解し、どのように備え、対応すべきかを共有します。
<フラッグシップアクション>
赤十字などが開発したGet Prepared(準備のための)アプリを導入。このアプリは、有事に必要な連絡先を教えてくれたり、市民が住んでいる場所に関するリスクを見える化し、有事の際のチェックリストを提供するもの。
⑤One シドニー
ラグビーワールド杯でスローガンとなった「ONE TEAM(ワンチーム)」に似たスローガンです。リスク間の相互依存性を理解し、全てのステークホルダーを巻き込んだシドニーが一丸となって、都市の脆弱性を克服する姿勢を見せています。
<フラッグシップアクション>
シドニー市内の全ての行政組織、企業、大学、コミュニティーセクターなどから成るOne シドニーチームの結成。シドニー全体が抱えるリスクとその相互依存性の理解を促進。「レジリエントシドニーオフィス」が中心となり、市内の100の組織をつなぐことを目指す。
SDGsとのつながりを明記したレジリエント戦略
シドニーのレジリエント戦略では、ご紹介した五つのスローガンそれぞれに、SDGsで掲げられたゴールとの関係性が明記されています。レジリエント戦略はショックやストレスといったリスク要因の理解からスタートしていきますが、リスクだけではなく、より広い社会の持続性や、国際的に合意のある目標とのつながりを明示している点が素晴らしいと思います。
35のアクションプランには、“ファシリテーター”が定義されています。どういったステークホルダーと協働するか、も大切ですが、“誰が”協働をコーディネートするかも重要です。ファシリテーターは必ずしも行政組織であるわけではなく、その点にもOne シドニーの考え方が反映されています。
シドニーでは、異なるリスクに同時に対応する難しさも認識しています。最も大きな気象リスクは熱波ですが、熱波による冷房需要が上がった場合の電力供給、人々が外に出て運動できなくなった場合の慢性病の増加などが想定され、現在、コロナ禍で熱中症への対応も迫られている状況に似ています。リスク間の関係性を理解することに焦点が当てられているOne シドニーの考え方は、とても参考になると思います。
ロックフェラー財団100RCに見る街づくりのポイントの他の記事
- One シドニーで一丸となった街づくり
- 適応、持続性、繁栄、埋め込みの4つのアクションプラン
- オンラインサービスを強化
- レジリエンスをプロセスとしてとらえる
- デジタルテックに着目したニューヨークのレジリエント戦略
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
-
民間企業の強みを発揮し3日でアプリ開発
1月7日、SAPジャパンに能登半島地震の災害支援の依頼が届いた。石川県庁が避難所の状況を把握するため、最前線で活動していた自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)の持つ避難所データを統合する依頼だった。状況が切迫するなか、同社は3日でアプリケーションを開発した。
2024/04/11
-
-
組織ごとにバラバラなフォーマットを統一
1月3日、サイボウズの災害支援チームリーダーである柴田哲史氏のもとに、内閣府特命担当の自見英子大臣から連絡が入った。能登半島地震で被害を受けた石川県庁へのIT支援要請だった。同社は自衛隊が集めた孤立集落や避難所の情報を集約・整理し、効率的な物資輸送をサポートするシステムを提供。避難者を支援する介護支援者の管理にも力を貸した。
2024/04/10
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月9日配信アーカイブ】
【4月9日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:安全配慮義務
2024/04/09
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方