登記事項証明書等で代表取締役等の住所の一部を非表示にできる、代表取締役等住所非表示措置が創設・施行されている(写真:Adobe stock)

はじめに

会社の登記事項証明書(かつての登記簿謄本)を取得し、ご覧になられたことはありますでしょうか。会社が融資を受ける際、新たな取引先と大きな契約をする際、訴訟提起をする際などに、登記事項証明書を取得なさると思います。

登記事項証明書に記載されている事項としては、例えば、株式会社の履歴事項全部証明書には、会社法人等番号、商号、本店、公告をする方法、会社成立の年月日、目的、発行可能株式総数、資本金の額などがあります。

そして、このような登記事項の中には、役員に関する事項も含まれており、代表取締役については、氏名のみならず、(自宅の)住所も記載されています。登記事項証明書は、誰でも取得することができるものですので、代表取締役の方については、その会社の大小や有名無名を問わず、住所が一般に公開されているということになります。

従前の登記制度だと、代表取締役等の住所が晒されるリスクがある(写真:Adobe stock)

住所というのは、プライバシー性の高い情報ですので、公開されてしまうことに強い抵抗感がある方も多くいらっしゃるものと思います。とりわけ、インターネットやSNSが普及した現代社会において、代表取締役の住所が「晒される」というリスクもあり、従前どおりの登記制度であると、起業の躊躇(ちゅうちょ)、ストーカー等の被害等の誘発につながりかねないという懸念が指摘されるようになっていました。

こういった社会情勢や懸念などを受けて、商業登記規則等の一部を改正する省令により、代表取締役等住所非表示措置が創設され、令和6年10月1日から施行されています。

この代表取締役等住所非表示措置の施行から1年超となりましたが、私自身の経験として、訴訟提起等のために登記事項証明書を取得しても、ほとんどの株式会社で代表取締役の住所の全部が記載されているように思われ、まだ同措置が十分に利用されているとは言い難いのではないかと感じています。

そこで今回は、代表取締役等住所非表示措置について取り上げ、概要やメリット・デメリットなどをご説明してみたいと思います。

概要

要件を充たした場合、登記事項証明書などに株式会社の代表取締役等の住所の一部を表示しないことができる(写真:Adobe stock)

代表取締役等住所非表示措置は、要件を充たした場合に、株式会社の代表取締役等(=代表取締役・代表執行役・代表清算人)の住所の一部(=住所の行政区画以外の部分)を登記事項証明書や登記事項要約書などに表示しないこととする措置のことです。ここで、重要なポイントとしては、以下のとおりです。

第一に、株式会社のみに適用されます。持分会社(合同会社、合名会社、合資会社)、各種法人(社団法人、財団法人、NPO法人等)、投資事業有限責任組合、有限責任事業組合、限定責任信託等は適用対象外です。また、会社法上は株式会社として扱われている有限会社(いわゆる特例有限会社)も適用対象外です。

第二に、住所の全部が非表示になるのではなく、住所の行政区画以外の部分が非表示になります。住所として、市区町村まで(東京都は特別区まで、指定都市は区まで)は表示されます。

【措置が適用されない場合の表示の例】
東京都港区虎ノ門●丁目●番●号
代表取締役 ■■■■

【措置が適用される場合の表示の例】
東京都港区
代表取締役 ■■■■

第三に、住所の非表示の制度であって、住所が登記事項でなくなるものではありません。代表取締役等の住所については、代表取締役等住所非表示措置が適用される場合であっても、登記義務があります。このため、例えば住所変更の場合には、変更登記が必要です。