2020/07/03
危機発生時における広報の鉄則
最近の3つの事例から考える
では、具体的な事例から考えてみましょう。定年延長問題で注目を浴びた黒川弘務前検事長は、朝日と産経の記者との賭け麻雀をスクープされて辞職しました。本件について、黒川氏も朝日、産経両新聞社も公式会見を開いていません。
記者会見を開かないのは納得できない、情けない、といった意見がありました。黒川氏についていえば、辞職という形で責任を取りました。辞める本人が記者会見をすべきでしょうか。
法務省では定例記者会見がありますので、その中での説明はあってしかるべき。本人については、本人が希望する場合にはあり得るでしょう。しかし今回は本人が希望せず、静かに辞職する道を選択したのだと推測できます。本人が記者会見をしないことがけしからん、という声が高まれば、会見の選択の余地はあるでしょうが、本件については定年延長問題ですから、辞職という幕引きで多くの国民は納得したといえます。

新聞社については、社員の不祥事になります。具体的な被害者が存在し、その被害者から記者会見して謝罪してほしいと要望があれば記者会見をせざるを得ませんが、賭けマージャンの場合、明確な被害者がいません。また、読者から批判が殺到した場合や購読停止が相次いだ場合にも記者会見をすることになると思いますが、今回そこまでには至っていなかったのではないでしょうか。
このように記者会見を開催するかどうかは、被害者が誰なのか、あるいは事業への影響によっての判断となります。また、検察と報道の関係は表立って話せないことだらけでしょう。賭けマージャンは行き過ぎではありますが、新聞社からすると、国民の知る権利に奉仕するため、検察の懐に飛び込むべきとの考えもあります。
持続化給付金事業を受託した一般社団法人サービスデザイン推進協議会と電通は6月8日に記者会見を行いました。協議会から電通への委託が97%であったこと、経産省職員が協議会の設立申請書を作成した痕跡があることなど、不透明感があるからです。この記者会見はあってしかるべきでしょう。国民の税金だからです。

手越祐也さんは6月23日に記者会見を行いました。これについては冒頭本人が説明していますが「誤報や憶測報道が多いから、きちんと事実を説明したい。自分の気持ちを伝えたい」ことを目的とした会見でした。
以上のように、記者会見を開催するかどうかは、事業体によって異なりますし、被害者がいるかどうか、公金かどうか、誤報を止めるため、とさまざまな判断があり得るのです。
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