最後は被災経験を生かす、若き救命救急のエース!

最後にご紹介させていただくのは、日本赤十字社医療センター 救命救急センター の鷺坂彰吾先生。鷺坂さんは、医学生時代から防災・減災で活躍されている方なのです。

日本赤十字社医療センター救命救急センターの鷺坂彰吾先生  (画像提供:鷺坂彰吾さん)

―― 防災・減災に興味をもった時期ときっかけを教えてください

私は福岡県出身なのですが、実は2005年に福岡県西方沖地震というものを経験しています。当時はまだ中学生でした。震度6弱の揺れで周りの住宅に半壊などの被害が出る中、我が家は結果的にお皿一枚割れることはありませんでした。当時「福岡に地震なんて来ない」という風潮の中、我が家は建物の耐震性や家具の固定にかなり気を遣っていたのです。この時、「災害は備えることで被害を最小限に防ぐことが出来る」という印象が強烈に残りました。

その後、高校生の時に縁あって福岡県の事業に応募し防災士の資格を取ることができ、さらに防災・減災に対する学びを深めることが出来ました。

パイロットや舞台関係などなりたかった職業は他にもたくさんありましたが、最終的に救命救急・災害医療の分野を志したいと思うようになりました。人が困っている瞬間にその人のために何か出来ることがある、という点に魅力を感じました。

2011年の東日本大震災の際はまだ医学部生だったのですが、日本プライマリ・ケア連合学会が当時展開していた東日本大震災支援プロジェクトPCATの本部で、得意なIT分野を活用して情報共有システムの構築などのお手伝いをしていました。ゴールデンウイークの休みを利用して、石巻の現地事務所・福祉避難所にも運営のお手伝いに行きました。

■日本プライマリ・ケア連合学会の東日本大震災支援プロジェクト「PCAT」
http://www.pcat.or.jp/

その時のノウハウも踏まえ、2012年からは大学附属病院の災害時情報共有システムを救命救急センターの先生方と共同開発したりしていました。また、学外でも地域の防災関係の集まりで医学生兼防災士として災害に関する講演などに呼んで頂いたこともありました。

救急救命にあたる鷺坂先生。真剣な顔がステキ♪(画像提供:日本赤十字社医療センター救命救急センター

―― 中学生での地震体験、そして、高校生で防災士資格取得、医師を志し、医学生の時から得意のITを生かして東日本大震災への支援にも入られるなど、着実にご自身のスキルもあげてこられたのですね!防災・減災の活動に参加して感じたことはどんなことでしょうか?

2つあって、ひとつは「災害は忘れたころにやってくる」。そしてもうひとつは「防災・減災の全ての基本は日ごろからの延長線上にある」ということです。前者は東日本大震災から時間が経つにつれて、徐々に感じるようになってきました。東日本大震災の直後は様々な分野で一気に災害対策が進み、世間としても防災・減災に対する機運が上がっていたと思います。

しかしだんだん時間が経つにつれ、当時の危機的な状況が少しずつ忘れ去られているのでは、と疑わざるを得ないことが増えてきました。2011年前後に多くの企業で導入された非常食もその多くが保存期限が5年間ですが、期限切れがそのまま放置されていたり当時導入された災害対策備品がメンテナンスされていない、といった状況は医療機関でさえしばしば耳にします。

正直に言うと「地味なこと」ではありますが、災害対策というのは細く長く継続的に続けていくことの大切さを痛感している今日この頃です。

もうひとつの、「防災・減災の基本は日ごろからの延長線上にある」というのは、「災害時専用」とか「緊急時専用」というシステムは、いざというときにホコリをかぶっていて使い物にならない場合が多い、ということです。

それよりも、日ごろから使い慣れているものを災害時にも使い続けられるようにする仕組みづくりの方が非常に重要だと感じています。この概念は結果的にBCPにも繋がるのだと思います。結構気合が入っている企業さんや団体さんほど災害用の特別な仕組みを作りたい!といった意気込みが入っていたりするのですが、日常業務のレジリエンスを高める方が効果的だなと最近は感じています。

そしてこれは強調しておきたいのですが、モノの備蓄やシステムの構築は事前対策として当然ながらとっても重要なのですが、何よりも大事なのは「お互いに顔の見える関係性」を作っておくことです。最後の最後で役立つのはやはり人と人の関係であるといって決して過言ではありません。日ごろから色んな人・部署・組織と良好な関係性を築いておくことはある意味最強の災害対策です。

救命救急センターの仲間との一枚。皆さん元気そうですが、なんと深夜一時だそうです。お疲れ様です! (画像提供:日本赤十字社医療センター救命救急センター

―― 細くても長く続けること、そして、日常にとりいれること、最も大切なのはお互いに顔の見える関係性であること、どれも心にしみます!防災・減災に取り組んでいらっしゃる医師として、多くの方にお伝えしたいことはありますか?

防災・減災の基本は「自分の身は自分で守る」です。一人でも多くの人が、例えば24時間のうち1/3程度を過ごしている自宅ベッドの周りだけでも転倒防止対策を最低限行うとか、ぜひ自身で事前対策をしてほしいなと思います。それでも怪我をしたり病気になってしまった場合は、私たち医療の出番です。ただ、医療は限りある社会資源ですので、皆が皆「困ったときはとりあえず病院に行けば何とかなる」と思っていると、あっという間に破綻してしまいます。これは、平常時も災害時も変わりはありません。まずは一人でも多くの皆さんに可能な範囲内で「患者にならない工夫」をしてもらえればなと思います。

繰り返しになりますが、防災・減災は「事前に備えれば防げるものがある」というのがポイントです。失ってしまった後から後悔しないよう、ご自身そしてご自身の大切な人に働きかけて、あらかじめ具体的な対策を取ってもらえたらなと思います。

―― 平時でも災害時でもひとりひとりの「患者にならない工夫」というキーワードは今後とても重要なキーワードになりそうな気がしました!大切な人に働きかけていきたいですね。今後の夢や希望についてお聞きしてもよいでしょうか?

まずは救命医としてまだまだ駆け出しなので貪欲にトレーニングを積み続けること、そして災害医療の分野でも特に興味のある、効率の良い情報収集やその集めた情報をいかに上手く活かして再分配するか、といった部分の研究やシステム開発にも同時並行で関わることが出来ればと思います。あとは自身やその大切な人たちの命を守るため、防災・減災を啓発する活動にも引き続き関わっていきたいですね。

―― 学生のころから、ずっと防災・減災に関わり、努力してこられているお話を聞くと、これからの夢もきっとかなう気がしますし、応援していきたいと思います!最後に、あとに続く若者に一言メッセージをお願いいたします。

防災・減災というのはインフラ業やサービス業など、仕事の種類に関わらず全ての人が関わるチャンスを持っているものです。自分自身、そして自分の大切な人をいざというときに守り抜くためにも、少しでも多くの人に防災・減災に興味を持ってもらい、具体的な行動を起こしてくれたらなと思います。

救急医はまだまだ数が足りてないので、この記事をきっかけに救命救急の分野に興味を持って進んでくれる人がいるとしたら、とっても嬉しいです。

―― 多くの人が様々な分野で防災・減災に興味を持ってくれたり、また、数が足りていない救命救急医を目指す若者が増えるといいなと私も思いました。本日はありがとうございました。

・・・ということで、3人の若者インタビュー、いかがでしたでしょうか?こんな子に育ってくれたら親も嬉しいだろうなと、ついついおばちゃんモード全開で聞き入ってしまったりもしました。

みなさまの地域にも、きっと防災・減災の夢をつないでくださる原石みたいな若者がいらっしゃると思います♪いろんな世代のいろいろな人とつながって、一緒に防災・減災を実践できればいいですね!

(了)