2021/03/08
非IT部門も知っておきたいサイバー攻撃の最新動向と企業の経営リスク
第二の標的
CISAが確認したサイバー攻撃の中には、フィッシング詐欺も多く発生している。
フィッシング詐欺行為では、クラウドサービスの資格情報(ログインするためのユーザーIDとパスワードなど)を収集するために、悪意あるリンクを含んだフィッシングメールを用いている。この悪意あるリンクは一見すると安全なメッセージを装っており、またファイル共有サービスなどのログイン画面のように見えるメール文章などもある。
万が一、標的となってしまったユーザーがここに資格情報を入力してしまうと、悪意ある者は、盗み出すことに成功した資格情報を用いてクラウドサービスへのログインを試みる。なかには、被害に遭った企業が存在する国とは異なる国からログインを企てている場合もある。しかしこれは悪意ある者たちが自らの所在を偽装するために行っている可能性があり、必ずしも悪意ある者の所在地とは一致しない。
クラウドサービスへの不正アクセスに成功すると、悪意ある者たちは次に、被害に遭った企業や組織内の他のアカウントに対してメールを送り始める。これは、既に盗み出された資格情報を用いて本物のメールアドレスから送られた偽物のメールであるため、受け取った第二の標的がそれを見抜くことは一段と難しくなる。
また、最近ではログインの際にパスワードだけでなく携帯電話のテキストメッセージやトークンなどを用いた複数方法で認証を行う多要素認証(MFA)を用いてセキュリティーを高めている企業も多い。
しかしMFAを用いていた企業であっても、残念ながらこのような被害に遭っている企業をCISAでは確認している。ここでは詳細な手口の説明は割愛するが、おそらくpass-the-cookie攻撃(*2)という手法を用いてMFAによるセキュリティーを回避し、不正アクセスを成功させたのではないだろうか。
*2 https://stealthbits.com/blog/bypassing-mfa-with-pass-the-cookie/
標準機能の悪用
最近では個人所有のスマホなどを直接業務に活用できる場面も増えてきたが、仕事用のメールを携帯メールなどに転送設定し、出先などからでも見られるようにされている方は多いのではないだろうか。この転送設定を変更してしまい、機密情報を盗み出すといった手口もある。
転送設定を悪用することで標的のもとに届いたメールの全てが、悪意ある者の持つメールへと転送されるように設定されるといった被害も発生している。
また全てのメールを転送してしまうと悪意ある者も大変なので、いくつかの財務関連キーワードが含まれていた場合にのみ転送するよう設定するといった手口も取られる。この場合、抽出するキーワードにはスペルミスなども含めておくことで、より精度高く目的のメールを取得しようとしている。
さらには、フィッシング詐欺のメールで警告が表示されてしまわないように、特定のフィッシング関連キーワードを含む場合でもメールが届くように細工されてしまうこともある。あらかじめ用意されている標準機能を悪用される場合もあるのだ。
非IT部門も知っておきたいサイバー攻撃の最新動向と企業の経営リスクの他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方