【イスタンブール時事】ウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所のダムが決壊してから6日で1カ月。ロシア軍の侵攻が続く中、発電所の修復は不可能とみられ、住民の暮らしに深刻な被害が出ている。決壊直後に起きたドニエプル川周辺一帯での大規模浸水で破壊された生態系にも取り返しのつかない被害が生じた。
 ウクライナ経済省は6月30日付の声明で、住宅やエネルギー、農業、交通などさまざまな分野で甚大な被害が出たダム決壊による直接の被害額は少なくとも20億ドル(約2900億円)に上ると発表。また、大破したダムの修復は不可能で、「新たな水力発電所の建設には(さらに)10億ドル(約1450億円)の資金が必要だ」と訴えており、国際社会の息の長い支援が求められる状況だ。
 現地メディアによると、ウクライナのストリレツ環境保護・天然資源相は今月5日、ダム決壊で「100万人近くの国民のニーズを満たしていた最も重要な資源や水を失った」と説明。「長年の自然の営みによる生態系は元には戻らない。(一定の)回復にも10年以上かかる」と指摘した。
 決壊の原因はなお不明だが、現場がロシアの占領下にあったことなどから、ロシア軍の関与が強く疑われている。報道によれば、直後に発生した洪水などで住民100人以上が死亡し、数万人が避難を余儀なくされた。
 こうした中で、同じくロシアが占拠するウクライナ南部のザポロジエ原発も破壊されかねないとウクライナ当局は危機感を強めている。ゼレンスキー大統領は4日、ウクライナの反転攻勢に直面するロシアが、ザポロジエ原発の屋根に「爆発物のような物体を仕掛けた」と述べ、被害が出れば「放射線の影響が世界に及ぶ」と強調した。
 これに対し、ロシアのペスコフ大統領報道官も「ウクライナによる破壊工作の恐れがある」と主張しており、爆発などが起きればウクライナ側の責任を問う姿勢を示した。 
〔写真説明〕洪水被害を受けたウクライナの村=4日、南部ミコライウ州(AFP時事)
〔写真説明〕ウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所決壊で、洪水の被害を受けた家に暮らす女性=4日、南部ミコライウ州(AFP時事)
〔写真説明〕カホフカ水力発電所のダム決壊による洪水後、放置された車=6月21日、ウクライナ南部ヘルソン州(AFP時事)
〔写真説明〕冠水した地域で冷凍庫を運ぶウクライナの住民=6月12日、南部ヘルソン州(AFP時事)

(ニュース提供元:時事通信社)