2024/05/08
危機管理担当者から社員に伝えておきたいメッセージ
ポリシー順守はあなたのため 「デジタルタトゥー」の怖さも

新年度から会社の仲間に加わった新入社員は、いわゆる「デジタルネイティブ」と呼ばれる世代。子どもの頃からスマートフォンに慣れ親しみ、友人とSNS で交流するのがあたり前の世代だ。X(旧ツイッター)やインスタグラム、TikTokといったサービスを使いこなす分、投稿に対する心理的ハードルも低い。
しかし学生時代と違って、社会人になれば取り巻く情報環境が変わり、自身の立場も変わる。うかつな投稿が「炎上」につながるケースは多く、爆発的に拡散すると影響も大きい。そのためこの時期は、新人研修のテーマにSNSリスクを組み込むなどして教育を徹底している企業も多いだろう。
発信力がなくても「炎上」する
炎上は企業規模の大小問わず、また業種・業態問わず起こり得る。また社員個人に発信力・影響力がなくても投稿がリークされて拡散されることがあるので要注意だ。デジタルリスク監視・検知サービスを提供するエルテス(本社:東京都)によると、最近は「炎上系」「暴露系」などと呼ばれるインフルエンサーが拡散の起点になるケースが多いという。
例えば、新入社員が入社式の写真をアップして『思っていた会社と違った』などとつぶやく。配属先の名称をあげて『何をやっている部署か知らないので不安』などとぼやく。それをインフルエンサーが発見して拡散、炎上するという流れだ。
「投稿する本人は軽い気持ちでも、入社式や配属先は『業務上知り得た情報』に該当します。また、単なるスナップショットと思っても、写真には『取引先の情報』さらに『機密情報』が写り込んでいる可能性もある。それを無自覚にSNS に投稿する姿勢が非常識だとして、攻撃されるわけです」(プロモーショングループ釜石萌氏)
有名企業に所属している場合などは社会的注目を集めるケースも多い。ただ、そもそも「新人のやらかし」自体がゴシップになりやすく、SNSで「バズり」やすい。閲覧数やインプレッション数の獲得のため「そうした投稿を意図的にねらうインフルエンサーもいる」(同)という。
ネットの傷は半永久的に残る
こうしたケースでは、本人が『社会人の自覚がない人物』として晒されるだけでなく、会社も『新人教育ができない組織』のレッテルを貼られる。誹謗中傷や風評被害につながる可能性もある。学生時代との違いを説明し、リスクをしっかり伝えて意識改革を促すことはもとより、SNSポリシーやSNS利用規約を定めて徹底することが必要だろう。
SNSポリシーを社内に浸透させるポイントは大きく3つある。一つは、例えば「機密情報を漏らさない」「取引先の情報を漏らさない」といったルールを、字面の説明だけで終わらせないこと。何が機密情報なのか、何が情報漏えいなのかを具体例をもって示し、同時に社員にも問いかけて、自ら考えてもらうことが重要だ(新入社員が気をつけたい炎上の具体的なイメージを次ページで例示)。
「接客のアルバイトなら何が機密情報で何が情報漏えいなのか、工場の生産ラインならどうか。そして漏えいしたらどうなるのか。答えは職場や職種によってさまざま。『いけない』とだけ伝えても理解は難しい。あとから『こんなことになると思わなかった』といわれないためにも、具体的なイメージを伝えることが大切です」(経営企画部奥村高大氏)
もう一つは、SNSポリシーの順守は会社のためであると同時に、あなたのためであると理解してもらうこと。炎上すると会社もダメージを被るが、個人が受ける傷はそれ以上に深い。いわゆる「デジタルタトゥー」だ。

インターネット上に刻まれた炎上の履歴、特定された名前や住所、職場、学歴などの情報は半永久的に消えない。それが本人のキャリアアップに不利となるのは明らかだろう。「転職、あるいは結婚のときもリサーチされるかもしれない。リスク担当の方はそこまでの影響を考え、SNSポリシーの意味を伝えてほしい」(同)
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