イメージ:写真AC

一般に、世界の中で日本は最も治安の良い国の一つと言われています。これを裏付ける統計の取り方はさまざまあるのでしょうが、例えば、シンクタンク「Institute for Economics and Peace」が公表した「Global Peace Index(2023年)」によれば、「Safety and Security」の部門で日本は第二位(注:第一位はフィンランド)と発表されています[1]。他方で、2021年の日本人出国者数約51万人[2] のうち、同年の外務省による海外邦人援護人数が8,252人[3]であり、約50人に1人が何らかの援護を受けていることになります(注:同年は新型コロナウィルス感染症の影響で出国者数が減少)。当該邦人援護を受けた人数全てが日系企業関係者ではないでしょうが、これらの情報を踏まえると、やはり、日本から海外に渡航するということは、日本よりも治安が悪い国に行くことだという認識を持った上で、万一、海外で事件事故に巻き込まれた場合、現地の治安機関が日本ほど親身かつ適切に支援してくれない可能性があると理解することが大切でしょう。つまり海外では、「安全は自分(および自所属)で確保する」という心構えが重要です。このことから、弊社にも渡航先の安全情報に関するご質問を多くいただいており、世界各地の弊社のセキュリティ専門家が収集・分析した内容を基に個別にアドバイスさせていただいています。もちろん、渡航先によって治安に係るリスクは異なりますが、実は、海外で安全を確保するための基本的な対応は、次のとおり、大きく変わることはありません。

1.安全情報の事前入手

イメージ:写真AC

渡航先の安全情報を事前に入手した上で、どのような治安環境で活動するのかを認識し、脅威を特定し、標的となり得る可能性を分析することが重要です。例えば、犯罪多発地域のいわゆる「トラブルスポット」を事前に把握していれば、同場所に近寄らないようにするだけで、事件事故に巻き込まれる可能性は低減できます。また、渡航先の国内事情に関連して、抗議活動等の現在進行形の事案が発生し得る、またはしているとの情報があれば、当該抗議活動には近寄らないなどの対策を取るとともに、通常時よりも警戒度をさらに高めることが重要です。さらに、二国間関係に起因し、特定の国籍の人物が標的となり得る事態もあり得るため、ニュース等で外交関係に注視しておくのも得策です。なお、万一、犯罪等に巻き込まれた場合を想定し、現地受入先をはじめとする緊急連絡先を事前に確認しておくことも、被害を最小化する上で大切な作業です。

2.警戒度を高める

イメージ:写真AC

海外は、日本に比べて治安が良くないため、日本で生活していた時よりも自身で警戒度を高める必要があります。例えば、ホテル、自宅、事務所、レストラン等の付近で普段は見かけない不審な人物や車両等が存在しないか警戒し、それらに近づかないようにすることが大切です。また、人前で貴重品を取り出すなどの行為は控えるとともに、万一、犯罪が発生しやすい夜間に外出せざるを得ない場合は、単独での行動は控え、人通りが多くて明るい道路を選択することも必要です。さらに、視察等で車両移動する場合は、窓を完全に閉め、ドアをロックし、貴重品や鞄が車外から見えないように保管した上で、状況によっては、人が近づきやすい停車中は特に注意する必要があるでしょう。このような警戒度は、必要に応じて、帯同する家族にも意識してもらうことが好ましいです。なお、日本では電車内で乗客がよく居眠りしている光景を目にしますが、警戒度を高めるという観点からは好ましくなく、また最近は、携帯電話のアプリを使って位置情報を確認するのが当たり前になっていますが、周囲への警戒度が散漫になることから、同様に好ましくないでしょう。

3.目立たない

イメージ:写真AC

通常、犯罪者は、何らかの理由で目に付いた人物等を標的にする傾向にあります。そもそも、一般的に海外で日本人は裕福と見られる傾向にあるため、それだけで標的となり得、日本人はディスアドバンデージと言えるでしょう。よって、海外では、現地の服装や所持品等に合わせるなどして地元の雰囲気に溶け込んで極力目立たないようにし、高級な装飾品等は身に着けないことが重要です。また、パソコン、デジカメ、携帯電話等を持っていると、現地では高級品を所持する外国人として目立ってしまう可能性があるため、利用する場所やタイミング等にも配意するのが好ましいです。特に、最新の携帯電話等は、現地では高く転売でき得るため、標的になりやすいでしょう。また、大声でしゃべる、観光地でスーツ・革靴の集団が行動するなども目立ってしまうため、注意してください。なお、滞在中の旅程、滞在先、家族構成等を見ず知らずの他人と共有しないのは当然ですが、会話の中でこれらの情報を無意識に漏らしてしまわないこと、また、電話での会話を他人から盗み聞きされないように意識することも大切です。