改正「企業内容等の開示に関する内閣府令」が2023年1月31日に施行され、上場企業は有価証券報告書へ人的資本などについて記載することが求められるようになりました。今回は、人的資本経営について考えてみます。

■事例:有報における情報開示

プライム上場企業でIRを担当しているAさんは、今年度のIRにおいて「人的資本」に関する情報開示をどのようにすればいいか悩んでいます。今年度決算より、上場会社は有価証券報告書(以下、有報)において人的資本の情報開示を行うことが義務化されました。Aさんの会社では昨年度、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の「記載欄」が新設されたことを受け、人的資本について「人材育成方針」「社内環境整備方針」を、また多様性について「男女間賃金格差」「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」を追加開示しました。また今年度からは、内閣官房の非財務情報可視化研究会が「人的資本可視化指針」で示した下記の7分野についても、詳細な情報開示をする必要があると考えています。

1. 人材育成
2. 従業員エンゲージメント
3. 流動性
4. ダイバーシティ
5. 健康・安全
6. 労働慣行
7. コンプライアンス/倫理

昨年度の有報に新設された記載欄を作成するのには、実は大変な時間を要しました。コーポレートガバナンスコードに示された人的資本関係に関する原則や補充原則に則り、開示の準備を進めていきましたが、人材育成や社員の多様性に関するデータは、それまで全社で一元的に管理しておらす、セグメント別に独自に管理していたことなどから、データの収集や統合に苦労したのです。昨年度に取りまとめたものについては容易でしょうが、それ以外のものは、またデータの収集やとりまとめに膨大な労力がかかるだろうと思っています。

Aさんは「昨年度に公表した人的資本に関する情報で、我が社は一定レベルの情報を開示したものと思っているが、今後は、何をどの程度まで開示する必要があるのか? 開示についてはいろいろなフレームワークや開示基準等の策定が進んでいるが、どのフレームワークや基準に沿って行えばいいのか? また、他社はどのような状況にあるのか?」と悩んでいます。