自由貿易が恩恵をもたらすと信じられていた時代が終わり、経済的優位性を持って規制や関税などの手段で他国に圧力かける地経学的対立が顕著になってきました。これまでの「低コスト・高効率」ビジネスモデルからの転換について、具体的な対応とともに解説します。
■事例:突然の輸出規制
Aさんは、都内にある中堅電子部品メーカーで海外調達部門の責任者をしています。ある朝、端末に表示された速報記事を何度も読み返していました。「今度は経済的に協力関係にあるX国で輸出規制!?」と驚かざるをえませんでした。
数年前まで、Aさんのミッションは明快でした。グローバルなサプライチェーンを極限まで研ぎ澄まし、1円でも安く、1秒でも早く部品を調達すること。それによって、会社に利益をもたらしてきました。しかしながら、その日届いたニュースは、その積み上げを根底から覆すものでした。
友好国だと思っていた国々が、自国の安全保障や資源確保を優先し、特定の重要鉱物を含むデバイスの輸出に対して、突如として厳しい許可制を導入したのでした。しかも、その背景には大国間のパワーバランスを巡る、ビジネスとは無縁の政治的思惑が透けて見えます。
若手社員からは悲鳴のような報告が届きます。
「このままでは来月からの生産ラインが止まります。代替サプライヤーを探していますが、どこも足元を見て価格を3倍に釣り上げてきています。それに、他の国に切り替えたとしても、そこがまたいつ制裁の対象になるか分かりません」
Aさんは頭を抱えます。経営陣からは「レジリエンス(強靭性)を高めろ」と指示されていますが、そのためには在庫を積み増し、コストの高い国内生産や友好国への移転を検討しなければなりません。それは、これまで会社が勝ち抜いてきた「低コスト・高効率」というビジネスモデルを自ら否定することに等しい決断です。
確かに、戦争や政変による物流停滞は自社のリスクマップに載っています。しかし、今回の事態は「平時」に起きた某国の政策変更です。世界経済フォーラムの「グローバルリスク報告書2026」で最も重大なリスクとして挙げられた「地経学的対立」の現実が、自社のサプライチェーンを直撃した瞬間でした。
現場では、購買部門が必死に代替ルートを探し、法務部門は契約条項を確認し、広報は顧客への説明準備に追われています。しかし、どれも後手に回っている感は否めません。
Aさんは「果たして舵をどう切れば正解なのか?」と悩んでいます。
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