7月30日午前8時25分、ロシア・カムチャツカ半島付近でマグニチュード(M)8.7の地震が発生。気象庁は、午前9時40分に津波注意報を警報に引き上げました。岩手県の久慈港では1メートル30センチの津波を観測。その後、夜にかけて警報は津波注意報に切り替わりました。これが避難上、「もう大丈夫」という誤解を発生させます。こうした心理的な「緩み」により、社員が自己判断で避難所を離れることも珍しくありません。企業は、どう対応すべきでしょうか。
■事例:津波警報から注意報への切り替わり
7月のカムチャツカ半島沖地震では、大きな揺れもなく始業時間帯に津波警報が突然発令され、沿岸部に拠点を構える企業の社員たちは動揺を隠せませんでした。緊急の避難指示を受け、社員たちは手早く高台の避難所へと移動しました。
緊張の中で時間が過ぎ、午後9時前、太平洋沿岸を中心に発表された津波警報が注意報に切り替わりました。テレビやスマートフォンから流れるその情報は、社員たちの表情を一変させました。「もう大丈夫だろう」「自宅は浸水区域外だから戻っても平気だ」といった声が自然と漏れ始めるようになりました。
ある者は「この地域は防潮堤もあるし、注意報で被害なんて起きない」と言い、またある者は「別の避難所にいる家族が心配だ」と言って自家用車で移動をはじめようとしました。
危機管理担当のAさんは、それらの社員を慌てて呼び止め、「注意報に変わったとはいえ、津波の可能性は消えたわけではありません。避難場所にとどまってください」と繰り返し伝えましたが、言葉は思ったほど届きません。社員の頭の中には「警報から注意報に下がったし、実際、大した津波も来ていないから大丈夫」という構図ができあがっていて、避難開始から12時間ほどが経過し、疲労も募り、理屈ではなく感情が先に来て、動いてしまうのでした。
Aさんは深い無力感に襲われました。これまでの防災訓練で警報や注意報が解除されるまで避難場所にとどまることを何度も伝えてきたはずです。しかし実際の現場では、「注意報」という言葉の響きと、避難時間の長さに伴う「慣れ」が人々の判断を大きく歪めてしまう現実がありました。Aさんが発する注意喚起はあまりにも弱々しい響きとなっていました。
結果的に、カムチャツカ半島沖地震による津波では、自社に大きな被害は起こりませんでした。しかしAさんの胸中は、安堵よりもむしろ不安が残りました。
「今回たまたま被害がなかっただけで、もし想定外の遅れた津波や、余震による新たな津波が押し寄せていたらどうなっていただろう。もし、自分の言葉を聞かず帰宅してしまった社員が被災してしまったら・・・・・・」
Aさんは、避難所での自社社員の行動を振り返りながら、教育の難しさを痛感しています。「警報が一段階下がったという『安心感』や、長時間の避難がもたらす『緩み』。このような感情が現場の危機意識を溶かしてしまうのではないか。単に『注意報解除まで避難所に残りましょう』と言うのではなく、『注意報に変わったあとに油断して被害にあった過去の事例』を具体的に示す必要があるのではないか」と考えています。
同時に、「避難が長引いたときのストレス軽減策も欠かせない。毛布や軽食の備蓄だけでなく、避難所で社員同士が気持ちを共有できる仕組みを整えれば、ただ待つだけの時間を有意義なものとして受け止められるかもしれない」と考え、次に生かさなければと思っています。
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