イメージ(Adobe Stock)

中小企業であっても、求められるガバナンス領域は確実に広がっています。ただし、ガバナンスの全てを社長が引き受けるのは、制度的にも精神的にも適切な方法ではありません。ひとたび不祥事が表沙汰になれば大規模に拡散され、ときに会社の存続に関わる時代。会社も社長も救える、ガバナンス着手について解説します。

■事例:中小企業のガバナンス

Aさんは地方で製造業を営んでいます。創業から20年で社員は30人ほどの企業で、大企業の下請けとして地道に信頼を築いてきました。最近、Aさんの心に強く引っかかったニュースがありました。

机の上に置かれた一枚の新聞記事。見出しには「フジテレビ、前社長らに50億円の損害賠償請求」と書かれています。Aさんはその記事を何度も読み返しました。「大企業の話だ。自分には関係ない」、そう思おうとしていました。しかし、記事にあった「ガバナンス放置」「善管注意義務違反」の言葉が、重くのしかかっています。

Aさんは、最近起きた社内トラブルを思い出しました。「俺は、しっかりと見ているつもりだったのだが…」。実は、若手社員が上司の言動が不満で退職しました。その後、若手社員が投稿したと見られるSNSで会社の体質が批判され、取引先からも「御社の対応は大丈夫ですか?」と確認が入りました。

中小企業であっても、求められるガバナンス領域は広がる一方です。しかし、担当者を置くほどの余裕はありません。「コンプライアンスや人権の重要性は承知しているが、うちのような小さな会社がどう取り組んでいけばいいのか?」。社員の行動や取引先との関係、SNSでの評判、そして会社としての信用など…。すべての責任は社長のAさんに降りかかります。

しかし、具体的に何をどうすればいいのかがわかりません。専門家に相談するにも費用がかかり、社員に任せようにも、知識を持つ者は見当たりません。

Aさんは、社長という肩書きがいつの間にか「すべての責任を背負う者」になっていると気づいています。ふと、先代の社長であった父親の言葉を思い出しました。「社長というのは最後に責任を取る人間だ。でも、責任を取るということは、起きたことを知っていなきゃいけない」。その言葉の重みを、今になって実感しています。

「ガバナンスというのは、結局、社内が見えているかどうかの問題なのだと思う。けれども、現実の私は社内で何が起こっているか見えていない」

Aさんには、ガバナンス対策の答えがまだ見つかっていません。