2024/07/22
事例から学ぶ

ブレーキシステムの開発、製造を手掛けるアドヴィックス(愛知県刈谷市、秋山晃取締役社長)は、サプライヤーを訪ね、丁寧に話しを聞くことからはじまる「BCM寄り添い活動」を2022年度から展開している。支援するのは小規模で経営体力が限られるサプライヤー。「本当に意味のある取り組みは何か」を考えながら進めている。
❶ 最も効果を発揮できる条件を考える
・支援先の選定や方法だけに限らず、話しを聞き出す姿勢、方法まで熟慮する
❷ サプライヤーの資金不足には工夫で対抗
・無料、低料金できる対策を提示し、希望をかなえる
❸ サプライヤーとのすり合わせを重視
・お互いが意見や考えを出し合い、尊重しながら進展させる
IT部門が手をあげて参加
愛知県豊田市に隣接する刈谷市に本社を置き、アイシングループの1社としてブレーキシステムの開発、製造を手掛けるアドヴィックスは、サプライヤーのBCM支援に取り組む。サプライヤーを一軒一軒訪ね、「お困りごと」を丁寧に聞くことからはじまるこの活動を「BCM寄り添い活動」と名付けて進めている。

参加するのは調達部と経営企画部、安全環境部、ビジネスプロセス革新部、人事総務部と幅広く、協力しながら取り組んでいる。調達部企画グループ担当員の宇井崇氏は「長期に安定的な調達を維持、強化するために不可欠な取り組みです。また、我々はサプライヤーから選ばれる立場にもなっている。えらそうに振る舞える時代ではない」と話す。
同社がサプライヤーの管理に着手したのは2017年ごろ。アイシングループ共通の取り組みとして、初動のスピードアップを目的にサプライヤー情報のデータベース化に動き出した。
「例えばどこかの工場で火災があったとすると、我々は全ての1次サプライヤーに影響があるかを聞くような状態でした。それでは初動が遅くなる。そこを改善する取り組みでした」(宇井氏)
製品品番からサプライヤー情報のデータベースを整備し、2020年ごろまでに完了。住所をもとに特定のエリアをデータベースで検索すると、エリア内のサプライヤーが抽出される仕組みだ。
例えば、風水害で名古屋市中村区が浸水したとする。データベースで同区を調べると、エリア内のサプライヤーが表示される。この段階ではどの階層のサプライヤーかは不明だ。調達部門のバイヤーが抽出情報をもとに突き止めた 1 次サプライヤーに問い合わせて情報を収集。製品への影響を踏まえ、優先的に確保する部品などを調達部門が対応する。
そして、次のステップとして挙がったのがサプライヤーのBCM支援だった。CSR関連の活動を報告する社内会議で、今後の取り組みとして当時の担当者が話し合った。経営企画部との協力を含めて、話は進んでいった。
このBCM支援活動の情報をキャッチし、参加を希望したのが同社でITを担当するビジネスプロセス革新部だった。サプライチェーンのサイバーセキュリティ対策の必要性を強く感じていたからで、同部プロセス改革グループの亀井祐汰氏はこう話す。
「我々のようなデジタル部門は、基本的に社内に目が向いている。しかし、当社やそのサプライヤーがウイルスに感染したら得意先に多大な迷惑をかけるため、対策は実施したい。とはいえ我々からサプライヤーへのお声がけはなかなか難しい。どのサプライヤーから仕入れているかの情報も持っていません。 BCM支援の話は、またとない機会でした」
ビジネスプロセス革新部が抱いていた危機感は、2022年2月に現実になった。同業他社が子会社を経由してランサムウェアに感染し、影響はトヨタにまで波及した。トヨタは最終的に車を製造する14工場で28ラインを停止させる判断を下した。「非常に衝撃的でした」と亀井氏は話す。
事例から学ぶの他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方