年金改革における被用者保険適用拡大の行方
2025年の法改正に向けて

毎熊 典子
慶應義塾大学法学部法律学科卒、特定社会保険労務士。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会評議員・認定講師・上級リスクコンサルタント、日本プライバシー認証機構認定プライバシーコンサルタント、東京商工会議所認定健康経営エキスパートアドバイザー、日本テレワーク協会会員。主な著書:「これからはじめる在宅勤務制度」中央経済社
2024/07/25
ニューノーマル時代の労務管理のポイント
毎熊 典子
慶應義塾大学法学部法律学科卒、特定社会保険労務士。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会評議員・認定講師・上級リスクコンサルタント、日本プライバシー認証機構認定プライバシーコンサルタント、東京商工会議所認定健康経営エキスパートアドバイザー、日本テレワーク協会会員。主な著書:「これからはじめる在宅勤務制度」中央経済社
公的年金制度が抱える課題や問題を解消し、国民がより安心できる制度への変更を目指す年金改革。2020年の制度改正では、短時間労働者への被用者保険(厚生年金保険・健康保険)の適用に関する企業規模要件が、2022年10月から100人超に、さらに2024年10月からは50人超に拡大されました。次期年金制度の改正は、今年7月3日に厚生労働省が公表した2024年財政検証結果を踏まえ、2025年の通常国会に改正法案が提出されると見込まれています。
短時間労働者への被用者保険の適用拡大は、「勤労者皆保険」に向けた議論がある中で、2025年の改正でも更なる適用拡大が実施される可能性があります。適用が拡大された場合、保険料や事務手続きの負担増加など、経営への影響が大きいため、懸念されている経営者の方は少なくないと思われます。
この点に関連する資料として、厚生労働省が2024年7月3日に公表した「働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会議の取りまとめ」があります。
懇談会の議論の取りまとめでは、短時間労働者に対する被用者保険の適用範囲の在り方に関して、次の4つの被用者保険の要件について議論された内容が示されています。
①労働時間要件
「週労働時間20時間以上」とする労働時間要件については、引き下げるべきとする意見や、すべての労働者に被用者保険を適用することが望ましく、次期制度改正で引き下げを行うべきとする意見がある一方で、引き下げによる保険料や事務負担の増加による事業者負担の増加を懸念する意見もあったとしています。また、雇用保険と異なり、国民健康保険・国民年金というセーフティーネットが存在する国民皆保険・皆年金の下では、働く人々が相互に支え合う仕組みである被用者保険の「被用者」の範囲をどのように線引きすべきか、雇用保険の適用拡大の施行状況などを見ながら慎重に検討する必要があるとしています。
②賃金要件
現行の「月額賃金8.8万円以上」(年換算で約106円以上)の賃金要件については、すべての労働者に被用者保険を適用することが望ましく、適用拡大を進めるために引き下げるべきとの意見がある一方で、国民年金保険料よりも低い厚生年金保険料で報酬比例部分を含む年金を受給することとなる点を懸念する意見や、最低賃金に引き上げに伴い労働時間要件を満たせば自動的に賃金要件を満たすので、必ずしも賃金要件を設ける必要はないとする意見もあり、こうした点も踏まえて検討を行う必要があるとしています。
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