2025/04/25
防災・危機管理ニュース
「この事故に区切りは決してない」。JR西日本の長谷川一明社長は福知山線脱線事故から20年を前に報道各社の取材に応じ、安全意識向上の重要性を改めて強調した。同社は事故後、背景と指摘された社内風土の変革に取り組んできた。ただ、事故後に入社した世代が多数派となる中で、教訓を伝え続ける努力が求められている。
事故では、運転士が直前のオーバーランの言い訳を考えてブレーキが遅れたとされ、航空・鉄道事故調査委員会(当時)は、同社の懲罰的な「日勤教育」も影響したと指摘した。
同社は2016年、人為的ミス(ヒューマンエラー)に起因する事故などを社内処分やマイナス評価の対象から除外。ミスの隠蔽(いんぺい)を防ぎ、正確に状況を報告できる仕組みづくりを目指した。
同社の安全推進有識者会議委員を務めた安部誠治・関西大名誉教授(交通政策論)は、事故前の社風について「ミスが起きると運転士を叱責し、ヒューマンエラーに対する見方が非常に前近代的だった」と指摘。その後の取り組みで「安全対策への向き合い方が変わった」と評価する。
ただ、福知山線事故から20年となり、約2万4000人いる社員のうち、事故後に入社した世代が7割を占めるようになった。同社は社員に事故現場の視察や、遺族らの話を聴かせる研修など、風化を防ぐ取り組みを進めている。
大阪府吹田市の研修施設では今月11日、運転士などを目指す新入社員約40人が、過去の大事故や鉄道の安全装置について学んだ。父も同社で運転士をしているという安東茜音さん(18)は「父から安全がどれだけ大切か聞いていた。こういう事故が二度と起こらないようにしっかり学習して、立派な駅員になろうと思った」と話した。
12月には事故車両を保存する施設が同市に完成する予定で、社員の安全意識を高める場として活用する考えだ。遺族らの「さらされることに耐えられない」との声に配慮し、当面は一般公開しない方針。ただ、公開の是非については「将来にわたっての課題」(長谷川社長)としており、今後も検討を続けていくとみられる。
〔写真説明〕研修を受けるJR西日本の新入社員=11日、大阪府吹田市
(ニュース提供元:時事通信社)

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