2015/02/18
防災・危機管理ニュース
有限監査法人トーマツは2月16日、クライシスマネジメントに関する企業の実態調査結果を発表した。狭義のリスクマネジメントが、リスクが発現しないように事前に管理する取り組みであることに対し、クライシスマネジメントは重大なリスクが発現した場合の損失を抑え、発現後の影響を低減する活動を指す。調査は国内上場企業を対象に昨年10月から11月にかけて行われ、有効回答数は431件だった。
同社が2003年から2014年までの12年間の企業のクライシス経験件数を調査したところ、2003年から2005年の79件に対し、2012年から2014年は189件でクライシスの経験件数は年々増加傾向にあるとしている(2009年から2011年は東日本大震災の影響もあり333件)。同社はクライシスを「システム関連」「不正関連」「自然災害関連」「製品関連」「経済・法律関連」「政治関連」「環境関連」「レピュテーション関連」の8つのカテゴリに分類。2012年から2014年では製品関連のクライシス経験件数が1位で、2位が自然災害関連、3位がシステム関連と続いた。有限責任監査法人トーマツのクライシスマネジメント 日本リーダー飯塚智氏は「システム関連がクライシス経験件数で単独の3位に入ったのはこの12年間で初めて。最近のリスク傾向を見ることができる」と話す。
日本の上場企業および海外子会社のクライシスの経験
過去12 年間で、65%の企業(海外子会社では36%)が何らかのクライシスを経験。「自然災害関連」(地震、台風、疫病等)、「製品関連」(サプライチェーン寸断、品質不良、設備事故等)、「不正関連」(金融犯罪、不正行為、法律違反等)がトップ3を占めた。2012年~2014年においては、「システム関連」(サイバー攻撃、情報漏洩、ウイルス感染等)が初めて単独の第3 位となった。

海外子会社におけるクライシスの経験
過去12年間の、海外子会社の件数は、「自然災害関連」、「製品関連」、「システム関連」および「政治関連」(国際紛争、テロ等)がトップ3を占めた。2009年以降急増、「政治関連」が直近の2012年~2014年においてはトップだった。
クライシスが発生した地域の特徴
・東アジア(中国・韓国)
「システム関連」(55.6%)、「経済・法律関連」(金融危機、訴訟被害、財政難、労使問題、知的財産の侵害被害、規制等)(33.3%)、「環境関連」(公害等)(57.1%)および「レピュテーション関連」(風評被害、不買運動、風評被害による株価の下落等)(75.0%)が上位となった。
・東南アジア
「自然災害関連」(80.0%)、「製品関連」(58.8%)、「経済・法律関連」(33.3%)および「政治関連」(52.6%)が上位となった。
・北米
「不正関連」(50.0%)および「経済・法律関連」(33.3%)が上位となった。
クライシスに対する対応策の現状と課題
クライシスの経験数が増加傾向にもかかわらず、十分な対応策を講じていると認識している企業が少ないことが分かった。
・日本の上場企業における対応状況
上位項目のうち、「システム関連」(21.6%)を除き、「不正関連」(18.8%)、「自然災害関連」(19.3%)および「製品関連」(14.6%)について「十分な対応策を策定済み」と回答した企業は2割にも及ばない。クライシスへの対応策を講じている理由として、「クライシス発生時の被害を最小限に抑えるため」(85.5%)、「クライシスが事業継続に影響する経営上の重要事項であるため」(80.4%)、「クライシス発生時の対応を迅速に行うため」(76.3%)を挙げている。
・海外子会社における対応状況
クライシスへの対応は、国内上場企業と比較して遅れている。2012 年~2014年のトップとなった「政治関連」への十分な対応策の策定は最も低い水準にある。

クライシス発生時の対応部門
クライシスが発生した際、「システム関連」の場合は「IT システム部門」、「自然災害関連」・「政治関連」・「環境関連」および「レピュテーション関連」の場合は「人事・総務部門」、「製品関連」の場合は「品質管理部門」が主に対応に当たっている。全社的に統括するような部署での一元管理・対応する体制が十分に整備されていない。

図表出典:有限責任監査法人トーマツ
- keyword
- 海外リスク
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2023/01/31
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2023年1月31日配信アーカイブ】
【1月31日配信で取り上げた話題】家庭での防災行動を高めるために
2023/01/31
-
-
1000人に聞いた防災の取り組みと行政への期待
リスク対策.comは、地域住民がどの程度防災に取り組んでいるのか、また防災の観点から行政に対してどのような要望を持っているのかなどを把握する目的でインターネットによるアンケート調査を実施した。その結果、2021年5月から避難勧告が廃止され避難指示に一本化されたことについては約5割しか理解していないことや、平時から国や地方自治体の防災のホームページなどがあまり活用されていない実態が明らかになった。調査は、2022年11月21日から22日にかけてインターネット上で行い、全国の20歳以上の成人男女1000人からの回答を得た。質問は、回答の質を高めるため「この質問は一番右の回答をお選びください」という条件項目を入れ、適切な回答をしなかったものを除き、計889人を有効回答として分析した。
2023/01/30
-
社内滞在時をイメージさせる実践的な訓練と備蓄
テクニカルセラミックスを開発・生産するクアーズテックは2012年、東京都の帰宅困難者対策条例を機に一斉帰宅抑制対策に乗り出しました。独自のプログラムを追加した実効性の高い訓練や被災時の心理にも配慮したきめ細かな備蓄が評価され、2021年には東京都のモデル企業に。同社の取り組みを紹介します。
2023/01/29
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2023年1月24日配信アーカイブ】
【1月24日配信で取り上げた話題】最強寒波への備え
2023/01/24
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2023年1月17日配信アーカイブ】
【1月17日配信で取り上げた話題】防災心理を学ぶゼミ生が制作した企業の防災マニュアル/コロナ発生から3年 企業の初動対応を振り返る
2023/01/24
-
BCPと助け合える関係が機能した災害復旧活動
2019年の台風19号でグループ含め3工場が壊滅的被害を受けたカイシン工業は、経営トップが「全力復旧」の方針を発表すると各工場が即座に活動を開始。取引先や協力会社の支援を受けて設備の交換を迷いなく進めるとともに、代替生産によって早期に出荷を再開しました。同社のBCPと助け合える関係づくりを紹介します。
2023/01/19
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方