企業の経営陣にとって、女性活躍の推進は後回しにできない課題だ。株主や機関投資家が向ける視線は年々厳しくなっており、放置すればガバナンス(企業統治)への信認低下を招きかねない。なぜ、企業経営にダイバーシティー(多様性)が求められるのか探った。
 女性活躍推進への投資家の疑念が経営問題に直結することが示された有名な事例は「キヤノンショック」だ。2023年の定時株主総会で経団連会長も務めた御手洗冨士夫会長兼社長(当時)の取締役選任案に対する賛成率が5割強にとどまった。機関投資家が女性取締役が一人もいないことを問題視したためだ。女性を含む選任案を提示した翌年は、御手洗氏への賛成率は90%を超えた。
 企業の情報開示などが専門の野村総合研究所の三井千絵プリンシパル研究員は「女性が活躍できないような企業は人材を生かせず企業価値を損なっている可能性が高い」との見方を示す。女性が経営や事業運営に携わることが必要な理由として、「人口の半分の消費者を理解し、サービスや商品開発に生かせる」と強調。同年代の男性といった同じ属性の人だけでは隠れたリスクに気付きにくいとも指摘した。
 女性の役員・管理職登用や働きやすい環境の整備が不十分だと「適切な人材を採用・昇進させる能力がない」「優秀な人材を採用できなくなる」と見なされる恐れもあるという。
 世界最大の機関投資家、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は女性活躍を含むESG(環境・社会・企業統治)投資や、投資家による投資先企業との対話(エンゲージメント)の効果を測定するための分析も進めている。中でも、女性活躍などのダイバーシティに関するエンゲージメントが、企業価値指標の向上に統計的にプラスの影響を与えていることも確認した。
 ESG・スチュワードシップ推進部長の広川斉氏は「長期的な投資パフォーマンスを向上させるためには、市場全体の持続可能性を底上げしていかなければならない」と説明した。
 【編集後記】なぜ企業の経営に多様性が必要とされるのか。経済記者として取材を続ける中、女性活躍の推進を「べき論」としてのみ捉えるのではなく、どのような経路で企業価値の向上をもたらすのか整理する必要があると感じていた。
 ESGはこれまで市場を席巻してきたが、米国を中心に揺り戻しの動きが目立つ。逆風が吹き荒れる時代だからこそ、企業はESGに取り組む理由を自らの言葉で改めて説明していくことが求められるのではないか。(時事通信経済部記者・小林優哉)。 
〔写真説明〕インタビューに答える野村総合研究所の三井千絵プリンシパル研究員=1月28日、東京都千代田区
〔写真説明〕国際女性デー2026

(ニュース提供元:時事通信社)