2019/01/10
AIブームとリスクのあれこれ
■新しいモデルの完成はそう遠くない
One Concernのアドバイザーでスタンフォード大学の地震エンジニア、Gregory Deierlein氏は、「数年後には新しいモデルが登場するだろう」と述べており、この研究が実証的な段階に入っていることを示唆しています。もちろんその中身は他の新興企業と同様、十分には明らかにはなっていません。企業秘密だから止むを得ないのでしょう。
とは言え、中には同社のAI技術を早く役立てたいと考えている人もいます。例えば、サンフランシスコ近郊には32平方マイルの地域を管轄する消防署がありますが、同署の署長Dan Ghiorso氏はこの研究に大きな期待を寄せています。なにしろこの消防署が建っている場所のわずか数百フィート下にはサンアンドレアス断層が通っているというのですから。
署長の心情として、街を救う消防署自体が被災したら困るなあという心配もあるかもしれない。しかし何よりも最大の懸念は、地震発生後の混乱と無秩序の街の中から、いかに緊急性の高い場所をピンポイントで特定し、機敏に対処できるかという点にあることは言うまでもありません。
米国も日本も同じと思いますが、通常地震が起こると、どの地域が最も大きな被害を受けた可能性があるのかを過去の経験(土地勘とも言える)やいろいろな情報を頼りに推測したり、実際に消防署に入ってくる膨大な被害情報を待ったなしでさばいたりする手腕が求められるでしょう。そして、がれきが行く手を阻む中、実際にあちこち車で移動しながらこの目で現場の状況を確認するしかないのが実情です(もっとも最近は被害探査用のドローンが活躍し始めてはいますが)。実際の地震をもとにしたテストを地道に繰り返している段階とは言え、この新しいソフトウェアが実用化されれば、まったく新しいアプローチを切り開いてくれることは間違いありません。
(了)
AIブームとリスクのあれこれの他の記事
- 第12回(最終回):不老長寿はAIで実現!?
- 第11回:AIと山火事の発生予測
- 第10回:地震への迅速な対応を指南してくれるのは…
- 第9回:AIで地震は予知できるか?
- 第8回:AIを使って犯罪をどこまで未然に防げるか?
おすすめ記事
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/09/02
-
-
-
ゲリラ雷雨の捕捉率9割 民間気象会社の実力
突発的・局地的な大雨、いわゆる「ゲリラ雷雨」は今シーズン、全国で約7万8000 回発生、8月中旬がピーク。民間気象会社のウェザーニューズが7月に発表した中期予想です。同社予報センターは今年も、専任チームを編成してゲリラ雷雨をリアルタイムに観測中。予測精度はいまどこまで来ているのかを聞きました。
2025/08/24
-
スギヨ、顧客の信頼を重視し代替生産せず
2024年1月に発生した能登半島地震により、大きな被害を受けた水産練製品メーカーの株式会社スギヨ(本社:石川県七尾市)。その再建を支えたのは、同社の商品を心から愛する消費者の存在だった。全国に複数の工場があり、多くの商品について代替生産に踏み切る一方、主力商品の1つ「ビタミンちくわ」に関しては「能登で生産している」という顧客の期待を重視し、あえて現地工場の再開を待つという異例の判断を下した。結果として、消費者からの強い支持を受け、ビタミンちくわは過去最高近い売り上げを記録している。一方、BCPでは大規模な地震などが想定されていないなどの課題も明らかになった。同社では今、BCPの立て直しを進めている。
2025/08/24
-
-
-
-
ゲリラ豪雨を30分前に捕捉 万博会場で実証実験
「ゲリラ豪雨」は不確実性の高い気象現象の代表格。これを正確に捕捉しようという試みが現在、大阪・関西万博の会場で行われています。情報通信研究機構(NICT)、理化学研究所、大阪大学、防災科学技術研究所、Preferred Networks、エムティーアイの6者連携による実証実験。予測システムの仕組みと開発の経緯、実証実験の概要を聞きました。
2025/08/20
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方