「嘘も100回言えば真実になる」は本当か
第89回:嘘と真実を語る失言(1)

多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
2025/06/17
再考・日本の危機管理-いま何が課題か
多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
「嘘も100回言えば真実になる」というのは、その昔、ナチス・ドイツの宣伝大臣であったヨーゼフ・ゲッベルスの発言(他説あるが)とされている。果たしてこのことは真実であろうか。
論理的に考えれば嘘は嘘でしかなく、どこまで行っても真実にはならない。この例えは、嘘であろうと繰り返し発信し続けると誰もが真実と感じるようになるということであり、プロパガンダの手法なのである。そして多くの人が信じることで、その嘘を真実にするように後から事実をつくり上げてしまう構造まで起こり得る。
この手法が大衆扇動として使われると危険なことは誰もが認識できるだろう。民主主義社会においてはなおさらである。しかし人は、繰り返されたからといって、そんなに簡単に騙されるのだろうか。
昔でいう掲示板、現在は“X”などのSNSでの書き込みを見ていると、このような嘘を信じ切っている人が多いのも現実である。どこからどう見てもでたらめばかりの政治家の発言は典型かもしれない。選挙前に突然人気取りの発言を繰り返しても、それを嘘と感じず、なぜか過去のことはすっかり忘れ、称賛までして、票が集まり当選させてしまうのも現実社会である。
これらの嘘に騙される問題を国語の長文読解問題にして、小学校高学年や中学入試の問題として出題し、何が真実なのか、どう考察するのか、この発言をしている人物の気持ちはどうなのか、など解答させたら、それほど難しい問題にはならないと感じる。つまり、日本人であれば義務教育レベルの日本語読解力・論理的判断力・社会性が備わっていればけっして騙されるはずがない次元なのに、それでも大の大人が簡単に騙されるのが現実社会なのだ。
この現象が生じる原因は大きく二つあると思っている。一つには、モチベーションを持たず、社会に対して斜に構えあきらめにも近い姿勢を露わにするなど、反抗期のように大人になり切れない幼稚性を感じる事象である。
ある意味豊かになり過ぎ、ゆとりを持つことで、責任放棄の個人主義が浸透してしまっている状況が遠因とも思える。世の中の厳しさが増せばそんなことは言っていられなくなるだろうが、そうなるまで気付かないとすると茹でガエルになるので不幸でしかない。
もう一つの原因も深刻だ。それは、冷静に問題に向き合い、全文をていねいに読んだ上での客観的考察をさせないように、感情を揺さぶられることで正常な判断をできなくさせられる現象だ。
ある意味宗教的な妄信であり、人が感情を持つ生き物である証かもしれないが、これはポピュリズムの温床となり、社会問題となり得る危険性が高い。歴史的にも悪用された事例が数多くあり、大衆側にも心を揺さぶるリーダーを待ち望む待望論がある。どこかで冷静にさえなれればよいのだが、そう簡単ではないのも現実だろう。
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