2019/02/05
災害関連死ゼロフォーラム レポート
■全国のデータ収集・事例公表で災害関連死を防ぐ
災害関連死を防ぐためには、災害弔慰金の支給・不支給に関わらず、亡くなってしまった方が災害前にどのような生活をし、災害によってどのように変わってしまったのかを詳細に分析すべきです。どうすればその命を救うことができたのかという視点で、どのような対策が採られていればその死を防ぐことができたのかを具体的な事例で明らかにしなくてはなりません。ただし、これらはセンシティブな個人情報であり、市町村単位での公表分析では、個人が特定されてしまう可能性もあります。
そこで、国が事例を全国の市町村から集め、医学のみならず、法学的視点、福祉的視点など多様な分野の専門家による調査機関を組織し、死亡原因、死亡に至る経過、今後の課題等を個別の事例ごとに十分に分析し、結果を匿名化して公表すべきです。なお、現在の各市町村の個人情報保護条例の解釈でも、国に遺族の同意なくして情報提供できる手法はありますが、全事例を漏れなく収集するには、特別立法によって国が事例収集できるようにすべきと考えます。これにより、例えば、温かい食事の供給、段ボールベッド設置、清潔なトイレ環境等の必要性等が浮かび上がることでしょう。分析結果は、災害救助法の定める救助基準のボトムアップにもつながります。事前の準備のための予算措置が十分になされることが重要です。
■災害関連死ゼロフォーラムで国民的議論を
阪神・淡路大震災の兵庫県の死亡者総数6402人のうち919人、新潟県中越地震では死亡者総数68人のうち52人、東日本大震災では死者1万9630人のうち3676人、熊本地震では死者267人のうち212人が災害関連死です。助けられたはずの命をどうしたら救えるのか、技術的や医学の向上も不可欠ですが、避難所環境向上や仮設住宅環境向上のためには、災害救助法をはじめとする法制度による担保もまた不可欠であることを今後多くの皆様に知っていただきたいと考えています。
■参考文献・関連記事
岡本正「災害復興法学II」(慶應義塾大学出版会 2018年)
http://www.risktaisaku.com/articles/-/9384
リスク対策ドットコム「災害関連死458人 南相馬市長が現状訴え 日弁連シンポジウム」(2014年9月3日)
http://www.risktaisaku.com/articles/-/971
日弁連「震災関連死の審査に関する意見書」(2013年9月18日)
https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2013/130918.html
日弁連「災害弔慰金支給申請に対する結果通知の運用に関する意見書」(2017年3月16日)
https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2017/170316_3.html
日弁連「災害関連死の事例の集積、分析、公表を求める意見書」(2018年8月23日)
https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2018/180823_3.html
(了)
- keyword
- 災害関連死
災害関連死ゼロフォーラム レポートの他の記事
- 災害関連死防止へ法制度での担保を
- 避難所・被災生活改善へ具体的アクションを
おすすめ記事
-
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
-
-
-
-
-
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17






※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方