七夕豪雨洪水之碑(静岡市葵区長沼公園)。Photo by Halowand, Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0.

1974(昭和49)年7月7日は、参議院議員選挙の投票日であった。夜、テレビで開票速報が放映されている頃、静岡市付近で雨が強まってきた。その降り方は尋常でなく、「大雨」などという言葉で片付くような生易しいものではなかった。清水市(現在の静岡市清水区)では市街地を流れる巴(ともえ)川が氾濫して市の中心部一帯が広く水につかり、静岡市中心部の安倍川流域でも浸水被害や土砂災害が多発した。両市における被害は、死者27名、全壊・流失・浸水家屋2万6156棟、浸水面積2584ヘクタールに達した。この豪雨は、7月7日の夜に発生したことから、「七夕(たなばた)豪雨」と呼ばれる。ただし、これは気象庁が定めた名称ではなく、通称である。本稿では、気象予報の観点から、この豪雨を検証してみる。

降水量508ミリメートル

図1に、静岡(地方気象台、所在地=静岡市駿河区曲金)における七夕豪雨の降水経過を示す。静岡では、7日の昼前から雨が降り始めたが、夜のはじめ頃までは降り方が弱かった。21時頃から突如として降り方が強まり、22時までの1時間に76ミリメートルの非常に激しい雨となった。その後、降雨強度に多少の変動はあったが、8日の明け方まで数時間にわたって1時間に60ミリメートル前後の降雨が続き、積算降水量がぐんぐん増えた。8日4時までの1時間に再び76ミリメートルの非常に激しい雨が降った後、降雨強度が幾分弱まり、8時までには雨が止んだ。結局、前日からの積算降水量は508ミリメートルに達していた。これは、静岡における24時間降水量の極値(歴代1位の記録)であり、その後52年経過した現在でも破られていない。ちなみに、静岡における24時間降水量の歴代2位は、2022(令和4)年9月23日に記録した416.5ミリメートルであり、1位とは90ミリメートル以上の開きがある。静岡で「七夕豪雨」の際に記録された極値は、今後もそう簡単には破られないのではないか。

画像を拡大 図1. 七夕豪雨時の静岡における降水経過(1974年7月7日~8日)

24時間降水量の極値に言及したが、図1でみると、静岡における七夕豪雨は、24時間より短い時間で降っている。降り始めから降り止むまでの降雨継続時間は約21時間だが、総降水量(508ミリメートル)の大部分(約87パーセント)は、7日21時から8日4時までの7時間のうちに降ったことが分かる。これが、この豪雨が生易しいものでないゆえんである。24時間降水量で見ても驚異的な記録なのだが、それが7時間に集中したところが尋常でない。

図2に、七夕豪雨による静岡県内の総降水量分布を示す。静岡県内でも降水量には大きな開きがあり、遠州灘に面した海岸部や伊豆半島南部はむしろ少なく、それより北側の、静岡県西部の山沿いから静岡市中心部を経て、駿河湾奥の沿岸部にかけての地域で多かった。

画像を拡大 図2. 七夕豪雨による静岡県内の総降水量分布(1974年7月7日~8日、等値線は50mmごと)。 国土地理院電子国土Webの陰影起伏図に加筆