イメージ(Adobe Stock)

企業の目的は、企業価値の向上にある。そのため、将来の不確実性のなかからビジネス機会を開拓し、不確実性に対し合理的に対処し安定的で継続的な活動を実践し続ける必要がある。しかし、今日企業が直面している不確実性はこれまで経験したことのないほど拡大している。それは、社会環境の大きな変化によるものと、企業の活動領域が社会的価値の向上と経済的価値の向上の両立を目指して拡大していることによるものが同時に起こっているためである。それらの変化は現時点で必ずしも市場に反映されてはいないものの、中長期的な企業価値向上に適切に対応しようとするなら、企業は非財務要素を経営の射程に加えなければならない。既存の枠組みや基準が本来の機能を発揮することは困難となっているため、企業は積極的に思考転換を図ってゆく必要があろう。

不確実性の拡大による影響

今日企業が直面している不確実性の拡大は、量的側面の変化だけではなく、質的側面(構造面)の変化も伴っている。特に、質的変化は、従来のリスク管理体系を十分機能させない事態に至る点をまず認識しなければなるまい。リスク管理の発展の歴史を振り返ると、不確実性の構造を理解することから始め、企業の経済価値への影響(変動)に関係するデータを統計処理に基づいて、その発生確率と損害強度を導出し、リスクを計量化すること(リスク量として把握すること)によって飛躍的に発展した。つまり、リスク量を他の財務指標と同様に経営管理することによって、いわば、将来の不確実性を予測・管理することに成功した。

換言すれば、企業の現在のリスク管理(事業継続管理を含む広義のリスク管理)は、不確実性を確率空間として捉えることで成り立っている。具体的には、リスク量の多寡を踏まえて戦略的判断を下す(リスク選好)。リスク量をリスク制御やリスク財務を通じて企業の許容範囲内に押さえるよう管理する(財務の健全性管理)。そして、リスクとリターンの対比で資本効率を追求する(資本効率管理)。また、巨大なイベントの発生時においても重要な事業領域の継続を担保しようとしている(事業継続管理)。

構造的不確実性とは、単純に「将来の個別の事象が予測できない」という意味ではなく、「物事を支配している構造そのものが変化し、過去の経験や既存のモデルでは将来を予測できなくなる状況」を意味している。従来の経営管理の前提にあった「予測・管理」の枠組みが機能しなくなる以上、このような事態に対応するための新たな処方を検討する必要がある。