【搬送について】

CFRまたはCERTメンバーにとって要救助者の搬送技術を学ぶことは重要である。災害現場では常に危険と背中合わせの中、要救助者を迅速に安全な場所へ移動させなければならない。筆者が市民救助隊養成研修講座の中でもこの部分の実地演習は必ず時間を取って受講者の方々に体験していただいている。実際に体験するとお分かりいただけると思うが、かなりの体力が必要になってくる部分なのでマンパワーの大切さやチームワークがいかに重要であるかが体で理解してもらえる。 

はじめに基本的な事だが、重量物を持ち上げる際は体の中で一番大きな筋肉を使い腰を入れて持ち上げることが大切である(図参照)。
 

• 背筋を伸ばす

• ひざを曲げる

• 荷重は体の近くに維持する

• 太ももの筋肉を使い、足で押し上げる

いくつかの代表的な搬送方法について紹介したが、筆者が最近注目しているものの中に日本の古武術の理念を取り入れた救急現場における搬送技術がある。プロの救急隊員でさえ現場活動中の受傷事故を分析してみると救急活動時における「ぎっくり腰」が圧倒的に多い。平成25年6月に厚生労働省から「腰痛を防止する介護現場における指針」が19年ぶりに改訂され公表されたが、社会福祉施設での腰痛発生件数も救急現場同様にここ数年で急増している。

そのような背景の中、問題改善を目的に介護福祉士の岡田慎一郎氏によって考案されたのが「古武術介護」の技能だ。わが国に古来より伝承されている各種武術の身体操作法を介護に応用し、要介護者の移動を業務とする介護職の腰痛防止に大きな効果を上げている。この取り組みが波及効果を生み、より現場活動に即した身体操作法へと改良され、各地の消防本部でも消防職員を対象とした講習の体系化が図られている。この技術を活用することで次のような効果が期待できると紹介されている。

1. 小柄な女性介護者でも全介護状態にある被介護者の体位変換や移動が容易に行える。

2. 被介護者への身体的・心理的負担が軽減する。

3. 介護者の腰痛発症率が飛躍的に減少する。


実際に講習後のアンケート調査でも、その効果の大きさが理解できる。また科学的データに基づく「自覚的運動強度(ボルグスケール)」においても、その有効性が数値で実証されている。筆者自身も是非とも受講したいと考えている講習の1つだ。

【その他の応急処置について】

本来であれば、ここから災害時に発生しがちな火傷・外傷・骨折・脱臼・捻挫・低体温症・熱中症・アナフィラキシー症候群などについてその応急処置方法を紹介したいところであるが、これらのファーストエイドに関しては平時における処置方法と特に差異があるものではないので、他の専門書に任せて第6章災害救護2の結びとする。

【まとめ】

今回の連載では災害救護2として「現場での衛生管理」、「処置エリアの設定方法」、「要救助者の全身観察の手法」と「搬送方法」について解説した。繰り返し強調していることであるが、現場で実践的な救護活動を実施するためには、「習う」「準備する」そして「練習を繰り返す」というプロセスを省くことはできない。是非、このシリーズを通して読者の皆様にはその必要性をかみしめていただきたいと思う。次回は第7章として「簡易捜索救助」について解説する。


参考文献: 
•COMMUNITY EMERGENCY RESPONSE TEAM.Basic Training Instructor Guide.FEMA.DHS
•内閣府防災情報のページ(教訓情報資料集)

(了)