デジタルリスクの地平線 ― 国際的・業際的企業コミュニティの最前線
人類史におけるAIの意味を考えてみる
洋の東西を問わず、人間の条件の限界を超えるツールに焦がれる人というのは、かつて絶えたことがありません。ヒンドゥー教や仏教では如意宝珠、欧州の錬金術師は賢者の石、道教では仙丹と呼ぶ違いはあれども、人智の及ばない不思議を信じ、それを得るために、文字通り身を投じた人々のなんと多いことでしょう。
時は今。ふと気が付くと、この魔法のツールが身のまわりに溢れているではありませんか。Artificial Intelligenceという名で呼ばれるものです。ところが、AIのビジネスへの導入に成功した企業は4パーセントほどに過ぎない、というデータもあるようです。
この4月に最新刊『Transcend: Unlocking Humanity in the Age of AI』を出版されたファイサル・ホーク(Faisal Hoque)さんの文を摘まみ読みし、以下に引用する対話を聴いていて、何がポイントなのかと言えば、組織の中での緻密でていねいな議論と、それを可能にするための正しいAIの理解だと了解しました。同氏は技術に明るいだけでなく、さまざまな事業やイノベーションを起こす中、筆も走り、米国のウォールストリートジャーナルなどでも名うての寄稿者です。
AIは、すっかり新しいテクノロジーですから、先験的に(transcend)取り組むためにも、闇雲に飛びつかず、まずは高い位置から(transcendent)理解し、現場で具体的に読みを入れていく必要性を感じます。
(以下、引用)
1. AI時代のビジネスリーダーの仕事
スティーブ・ダービン:最近、ファイサルさんのForbes誌でのインタビュー記事を読ませていただきましたが「AIの時代におけるビジネスリーダーの真の課題は、人間の価値観を維持することである」というお話でしたね。ビジネスリーダーができ得ることは何なのか、とても興味があるのですが、お考えをお聞かせくださいますか。
ファイサル・ホーク:そうですね、これからビジネスリーダーたちが向き合うことになる問題は、実に多岐にわたります。あらゆる技術革新のたびに見られることですが、仕事というもののありようがすっかり変わってしまいますから、人々が今までと違った仕事に就くチャンスが新しく生まれる一方で、多くの人が取り残されてしまうこともあります。
AIは、自動化が進むスピードや、一変してしまう職業の多さなどの点において、とてつもないインパクトがあります。ですから、私が懸念することの一つは、次世代の働き手、中でも、これから労働人口に加わってくる新入社員予備軍がどうなるのか、ということです。入社後の3年から5年の間を考えてみましょう。キャリアを積み上げてもらう前に、彼らに、どのようなスキル再教育を受けさせるべきでしょうか。これが第一のポイントです。
第二のポイントは、ご案内のようなデジタルによる創造的破壊がおき、グローバル経済の不安定さや地政学的な緊張を引き起す中、社会が大きく不確実性を増したことで人々が受けている心理的なインパクトの存在です。
実際のところ、心理的に受けるダメージは大きいものですから、リーダーの役割は、社員が生産的で、安心して自分の役割を果たし、組織に貢献できると感じられるような心理的に安心な職場環境(心理的安全性)を整えることです。それも、人によって役割が異なる点に留意したうえですけれども。
そして三番目ですが、最も重要なポイントは、リーダーは「中庸の道」を取らなければならないということです。つまり、楽観的であると同時に、こうした急激な変化にともなうリスクや混乱もすべて見渡しておく必要があるのです。
これらが、リーダーにとっての三つのポイント、あるいは心得て置くべき点です。そしてそれは、起業家であろうと、多国籍企業の経営者であろうと、大規模な政府機関の責任者であろうと、変わりはありません。
(中略)
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