東京は複合災害に備えよ
山田氏によると、東京が今後警戒すべきは地震と水害の複合災害だという。「例えば大地震で液状化が発生し、堤防が弱くなっている時に大雨や高潮が発生して堤防が決壊することは十分にあり得る。通常クラスの大雨や高潮でも、堤防が弱くなっていれば非常に危険だ」とする。2007年に発生した新潟県中越沖地震では、実は地震の3日前に大規模な水害も発生していた。もしこの順番が逆であれば、その被害はさらに甚大なものになっただろう。「東京の場合、地震によって耐震補強が遅れている堤防が決壊する可能性も高い。東京は地震だけでなく、その後に発生する水害にも複合的に備えなくてはいけない」(山田氏)。 

住民側も、ちょっとした工夫で水害に備えることもできる。例えば川から少し離れた場所であれば、家の周囲に50㎝ほどの植栽をすることで、水流が変わり家の土台から流される可能性が少なくなるという。一方、最近の戸建て住宅は気密性が高いため、水が押し寄せてくると浮いてしまって流されてしまうケースが多いという。 

山田氏は「関東地方は昭和22年(1947年)のカスリーン台風以降、本格的な大雨が降っていない。これは歴史的に見れば運がいいだけだ。若い人たちには防災教育などを通じて、災害に対するマインドを持たせなければいけない」と防災教育の重要性ついて指摘している。

水害は河川だけの問題ではない

「水害が発生するのは河川や堤防だけの問題ではない。それと同じくらい、水源である上流域の『治山』が重要だ」と話すのは、公益財団法人えどがわ環境財団理事長などをつとめる土屋信行氏。土屋氏は東京都建設局課長、江戸川区土木部長などを歴任し、ゼロメートル地帯の洪水の安全を図るため、2008年には「海抜ゼロメートル世界都市サミット」を開催するなど、幅広く防災に取り組んでいる。 

土屋氏が注目するのは、「洪水の色」だ。上流の山の手入れがどのくらい行き届いているかで、水害の規模が変わってくるという。間伐していない山では、木が大きくなりすぎて昼間でも足元が見えないほど太陽の光が届かなくなる。すると、本来木の根元に生えるはずの下草が生えず、雨のたびに土が削られ、最後には土が木の根をホールドできずに文字通り根こそぎ流されてしまう。 

「今回の水害でも、木が根付きで流されていた。根付きで流されるということは、山で木が自立できていないということ。ちょっとした雨でも表土が流されるため、河川が真っ茶色になる。鬼怒川の堤防が決壊する前に利根川水系でつながっている荒川を見に行ったら、やはり真っ茶色だった」(土屋氏)。

水が茶色であるということは、水の中の砂の比重が大きいということ。これは堤防にとっては深刻な問題で、土砂がサンドブラストをかけるように堤防を削り取ってしまう。土砂混じりの水が堤防を削って決壊することを洗掘破堤といい、現在堤防決壊の原因で最も多いものの1つだという。さらに比重が重くなれば、それが小石も流すようになり、小石を含んだ水はさらに大きな石を運ぶようになる。それが大きくなったものが土石流だ。 

土屋氏は「河川に茶色い水が流れるのは、治山ができていない証拠。日本は現在、第1次産業である林業を潰してしまったおかげで、洪水の危険性が増えていると思う。古来より、治水治山はセットで考えられていた」と指摘する。