新潟県刈羽村がプリンタやパソコンを提供

さて、どの文脈がどのキャピタルに相応するのか、ご自身で考えてみてください。

双葉町の行政機能は、2011年3月19日にさいたま市に、3月31日には加須市へと移転することになりました。さいたま市ではさいたまスーパーアリーナ、そして加須市では廃校となっていた高校の校舎という、元々行政機能を執行するための環境として作られたのではない場所を使わなければならなかったのです。ここでも、経済資本(庁舎としての建物)の代替性が分かりますね。しかしながら建物があったとしても、そこでゼロから業務環境を作っていく必要がありました。職員のみなさんは着の身着のままで避難してきたのです。

新潟県刈羽村は、双葉町の要請を受けずに、新潟県中越地震や新潟県中越沖地震といった過去の災害経験を踏まえて、さいたまスーパーアリーナにプリンタとパソコンを提供しました。これは社会関係資本の働きと言えます。同じ基礎自治体同士だからこそ、何が必要なのか分かっていました。情報システムの委託ベンダーも、大槌町の事例の時と同様に、業務システムの復旧をサポートしています。これは業務契約には記載のないアクションでしたので、社会関係資本と言って良いと思います。

実際の災害が起こるまでは、どの社会関係資本が、どのキャピタルの復旧に寄与するのか予測することはできません。また、日本は文化的にもソーシャルキャピタルの強い国として知られていますので、他の国の災害に、ここで見たような社会関係資本の働きを当てはめるためには更なる事例分析が必要です。しかしながら、大槌町と双葉町の事例から分かることは、社会関係資本によって災害時の適応能力(本連載の事例の場合は業務環境の復旧プロセスの迅速化)が上がるということです。東日本大震災後、産官学の様々なプレーヤー間で災害協定が結ばれるようになりました。このような動きも社会関係資本を深める上で重要だと思います。

一方で、社会関係資本の働きがあったとしても、内部の人間でないと行うことのできない復旧業務(これまでの自治体の例であれば住民情報の扱いや選挙人名簿の作成など)はどの組織にも存在します。日ごろ、「災害時に自分たち(組織内の人間資本)でなければできないこと」と、「外部の助けを受けて復旧できること」をしっかりと考えておくことが大切だと思います。

* A. Dean and M. Kretschmer, “Can Ideas be Capital? Factors of Production in the Postindustrial Economy: A Review and Critique,” Academy of Management Review, vol. 32, no. 2, 2007, pp. 573-594. および M. Mandviwalla and R. Watson, “Generating Capital from Social Media,” MIS Quarterly Executive, vol. 13, no. 2, 2014, pp.97-113. を改変。

(了)