京都大学 防災研究所教授 矢守克也氏

先日、神戸市長田区の真陽地区という阪神・淡路大震災で火災により大きな被害を受けた地区で、防災福祉コミュニティが主体となって、津波も含めた災害に対する備え方について考える会合があった。海側に大きなスーパーマーケットがあるのだが、ここには、欧米で使われているような大きなカートが置いてあって、そのカートで、高齢者の方を避難させるという計画を立て、そのための訓練や避難方法を議論していた。この地区に津波が到達するまでの時間を早くても60分程度と想定して対策を練っているが、地震が起きた直後に誰かがカウントしてくれるわけではないので、津波到達までの時間を知らせてくれるようなシステムを開発したいという提案もあった。企業を中心とした地区防災のモデルにもなりそうな取り組みである。

話は脱線するが、この会合の最中、ある70代のおばあちゃんが突然椅子から倒れた。小学校の体育館の中での出来事で、すぐに周りの人が集まり、消防の方もたくさんいたので応急措置をして救急車を呼んで病院に搬送され大事には至らなかったが、素晴らしいと思ったのは、まわりの人が皆顔見知りで、おばあさんの“かかりつけ医”や、心臓にトラブルを抱えていることなどを知っていて、救急の方に伝えたこと。会合の本来の意味以上に、このように顔が見え、支え合える地域の大切さを改めて感じた。

さて、パネリストの皆さんには、「地区防災計画制度の可能性と今後のあり方」について順番に意見を聞いていきたい。