2016/06/08
C+Bousai vol1
「対策」ではなく「思想」を創る
![](https://risk.ismcdn.jp/mwimgs/7/b/670m/img_7bc025af232836289fa76211ddd56345134179.jpg)
編集部注:この記事は、2014年9月1日発行の地区防災計画学会誌「C+BOUSAI」に掲載した記事をWeb記事として再掲載したものです。役職などは当時のままです。(2016年6月8日)
2012年3月31日、内閣府が公表した「南海トラフの巨大地震による震度分布・津波高について(第1次報告)」は、高知県の四万十川に近い穏やかな漁業と生花の町「黒潮町」を、不本意な形で一躍全国に知らしめてしまった。「最大震度7」「最大津波高は34.4m」「海岸線に津波が到達する時間は最速2分」。中央防災会議の「南海トラフの巨大地震モデル検討会」が算出した全国でも最悪の被害予想だった。
当日は多数のメディアが黒潮町に押しかけ、報道ヘリコプターの飛ぶ音が鳴り響いた。「正直なところ、ショックで何も考えることができなかった」。黒潮町長の大西勝也氏は当時を振り返る。その日から、「津波犠牲者をゼロにする」という気の遠くなるような目標に向けて黒潮町役場と住民の挑戦が始まった。
![](https://risk.ismcdn.jp/mwimgs/f/e/670m/img_fe873ee6d9d7b1342b1106096f56765c41050.jpg)
![](https://risk.ismcdn.jp/mwimgs/1/3/670m/img_13bb360144eb8d4f41c22baa507a94cf37719.jpg)
![](https://risk.ismcdn.jp/mwimgs/d/1/670m/img_d13c5d94fa038548c3f6defaf8b9a7c422338.jpg)
「新たに公表された想定は、(あまりに過酷な状況のため)黒潮町の防災対策を検討すること自体が不可能になった。まず何があってもぶれない、黒潮町の『防災思想』が必要と感じた」(大西氏)。1970年生まれで高校卒業後に海外で洋ランの栽培などを学んだ後、黒潮町で農家を経営した。2010年に町長に当選し、現在2期目。
町長に当選して1年が過ぎようとしたころに、東日本大震災が発生した。もし南海トラフ地震が発生したらと危機意識は芽生えたが、具体的な被害予想数値や国の指針が出るわけではなく、何をすればいいか1年間思い悩んだという。次の年の2012年3月31日、内閣府から新たな想定が発表された。翌4月1日は日曜日だったため、大西氏は住民の問い合わせを予想して職員を休日出勤させた。しかし、住民からの問い合わせは全くなかったという。
「反応がなかったのが1番怖いと思った。みんな災害に対してあきらめているんだと感じた」(大西氏)。町で会った住民からは、「町長さん大変だねえ」と慰められることもあったという。これではいけないと感じた大西氏は、月曜日の新年度初めの職員への訓示で「津波の対策をあきらめたり、住民に不安をあおるような発言はやめよう。今後の発言の一切は、全て課題を解決するためのものにしよう」と話した。
防災の最前線にいるはずの町役場の職員から「何をやっても無理」という意識が住民に広がることだけは、絶対に避けたかったからだ。そしてこの日から、黒潮町の津波対策への取り組みが本格的に始まった。
C+Bousai vol1の他の記事
- 「対策」ではなく「思想」を創る 住民と900回のコミュニケーション (高知県黒潮町)
- C+Bousai 創刊挨拶、地区防災計画学会 案内
- 特別対談|住民の権利と責任を制度化 自ら考え行動する地産地消の防災
- 市内全域8地区で防災計画 住民主体でガイドブックも作成 (北海道石狩市)
- 地域コミュニティごと防災計画策定 避難所運営計画、防災マップ作成も呼びかけ (香川県高松市)
おすすめ記事
-
-
-
3線モデルで浸透するリスクマネジメントコンプライアンス・ハンドブックで従業員意識も高まる【徹底解説】パーソルグループのERM
「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンとして掲げ、総合人材サービス事業を展開するパーソルグループでは、2020年のグループ経営体制の刷新を契機にリスクマネジメント活動を強化している。ISO31000やCOSO-ERMを参考にしながら、独自にリスクマネジメントの体制を整備。現場の業務執行部門(第1線)、ITや人事など管理部門(第2線)、内部監査部門(第3線)でリスクマネジメントを推進する3線モデルを確立した。実際にリスクマネジメント活動で使っているテンプレートとともに、同社の活動を紹介する。
2024/07/23
-
インシデントの第一報を迅速共有システム化で迷い払拭
変圧器やリアクタなどの電子部品や電子化学材料を製造・販売するタムラ製作所は、インシデントの報告システム「アラームエスカレーション」を整備し、素早い情報の伝達、収集、共有に努めている。2006年、当時社長だった田村直樹氏がリードして動き出した取り組み。CSRの一環でスタートした。
2024/07/23
-
「お困りごと」の傾聴からはじまるサプライヤーBCM支援
ブレーキシステムの開発、製造を手掛けるアドヴィックスは、サプライヤーを訪ね、丁寧に話しを聞くことからはじまる「BCM寄り添い活動」を2022年度から展開している。支援するのは小規模で経営体力が限られるサプライヤー。「本当に意味のある取り組みは何か」を考えながら進めている。
2024/07/22
-
-
危機管理担当者が知っておくべきハラスメントの動向業務上の指導とパワハラの違いを知る
5月17日に厚生労働省から発表された「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、従業員がパワハラやセクハラを受けていると認識した後の勤務先の対応として、パワハラでは約53%、セクハラでは約43%が「特に何もしなかった」と回答。相談された企業の対応に疑問を投げかける結果となった。企業の危機管理担当者も知っておくべきハラスメントのポイントについて、旬報法律事務所の新村響子弁護士に聞いた。
2024/07/18
-
基本解説 Q&A 線状降水帯とは何か?集中豪雨の3分の2を占める日本特有の現象
6月21日、気象庁が今年初の線状降水帯の発生を発表した。短時間で大量の激しい雨を降らせる線状降水帯は、土砂災害発生を経て、被害を甚大化させる。気象庁では今シーズンから、半日前の発生予測のエリアを細分化し、対応を促す。線状降水帯研究の第一人者である気象庁気象研究所の加藤輝之氏に、研究の最前線を聞いた。
2024/07/17
-
-
災害リスクへの対策が後回しになっている円滑なコミュニケーション対策を
目を向けるべきOTリスクは情報セキュリティーのほかにもさまざま。故障や不具合といった往年のリスクへの対策も万全ではない。特に、災害時の素早い復旧に向けた備えなどは後回しになっているという。ガートナージャパン・リサーチ&アドバイザリ部門の山本琢磨氏に、OTの課題を聞いた。
2024/07/16
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方