2016/10/30
世界から求められるEHS 環境、健康・衛生、安全を一体的に推進!
医療用医薬品の研究開発、製造、販売を手がける中外製薬。抗がん剤やバイオ医薬品などよく知られた医薬品の製造販売を手がける日本トップレベルの製薬企業だ。グループ会社を含め約7000人の従業員が国内の本社・支店や研究所、工場などの19拠点で働く。中外製薬は2011年からEHSの一本化に動き出し、現在は新しい組織体制に移行している真っ只中。同社のEHS統合を牽引するCSR推進部の環境・安全衛生グループマネジャー加藤伸明氏は「弊社には環境と安全衛生を全社的に統括している部署がありませんでした。それぞれの機能は別々の部署にあったのですが、統合すべきと感じ自ら手を挙げました」と話す。
それまで中外製薬ではEHSの管理を担当する部署は分かれていた。環境を担当していたのは社会責任推進部(現・CSR推進部)だった。製薬業界の環境への取り組みは比較的早く、中外製薬でも1996年に各事業所に環境委員会を設置した。その後、2002年にはスイスの大手製薬会社・ロシュ・グループの一員となったが、それを機に社会責任推進委員会が新設され、2003年に環境と社会責任を担当し
ていた各部を統合し、社会責任推進部の管轄になった。各事業所の環境委員会は維持されたが、社会責任推進委員会とこの環境委員会との関係性は明確に規定されていなかったという。
健康・衛生を担当していたのは人事部。従業員の健康情報が個人情報や人事情報にも関連するのが理由であった。その中には同社が力を入れる復職支援やがん治療と就労支援、また労災保険申請業務の支援までも人事部が担っていた。このようにEHSのうち環境は社会責任推進部、健康・衛生は人事部が管轄していた。
安全は工場や研究所などの各事業所が担当し、複数の事業所を束ねて本部が面倒を見ることもあった。この背景には労働安全衛生法がある。同法では事業所ごとの安全衛生委員会の設置を定めているので、業務中の事故などは各事業所の安全衛生委員会が対応にあたる。事故の原因究明や事故防止策の立案や実行もこの委員会が指揮していた。ただし、自衛消防や防災は総務系部署の役割で、訓練など
も行っていた。加藤氏は「EHSが分かれているのは、環境や安全衛生の法規制の対象とする基本単位が事業所なので、各事業所では委員会が主管となる体制になりやすく、それを統括する部署も分かれていたのではないか」と説明する。
海外企業に学ぶ
加藤氏がEHSを統合したマネジメント構築に手を挙げたのは、CSR推進部に異動する前部署で調達業務を担当し、マネジメント強化によるガバナンスの重要性を肌で感じていたからだ。加藤氏は製造委託や原材料の調達のため海外企業の工場を訪問することがあり、調査のためにヒアリングを行っていた。その際の担当者の受け答えから、本社が工場を含めた管理体制を構築し、責任を持ったガバナンスが機能している場面に出くわし感心したという。
医薬品の製造は比較的リスクが小さく、中外製薬の工場や研究所でも死亡事故の発生は極めて稀なことであった。それはリスクをうまくヘッジできていたと言えるが、マネジメントの強化で、より効果的で実効性のあるリスク対応が可能になると加藤氏は考えた。また、海外工場訪問の際、EHSを統合すべきと強く思うような課題があったという。
「例えば、ある工場で有害な気体が漏れ出し工場内に充満したとします。工場内の従業員の健康を最優先すれば、すぐに外に排気するべきです。しかし、環境や周辺住民にとって有害物質が放出されるのは受け入れられないはずで、むしろ工場内に閉じ込めるべきとなります。両者の解決策が完全にぶつかって両立は不可能となってしまいます。これは1つの例題ですが、EHSそれぞれの観点で最適な解決方法が全体として最善な方法にならないようなことは十分起こります。これまで中外はEHS各々の担当者の経験に依存している状態でした。両方を考慮に入れて対応できるようにEHSを一本化した体制構築が急務だと思いました」
加藤氏はEHSの個別マネジメントの問題点を続けて指摘する。
「複数の領域にまたがる課題もあるので、個別に管理すると現場から見れば責任部署がよくわかりません。報告書をどの部署に提出していいかもあいまい。さらに、人的リソースの無駄も生じます」
世界から求められるEHS 環境、健康・衛生、安全を一体的に推進!の他の記事
- 【インタビュー】今なぜEHSなのか。欧米企業とは「大きな差」
- 【講演録】グローバル企業に求められるコンプライアンス~環境・労働安全衛生関連法規制の順守~
- 【先進事例】組織体制をシンプルに 環境を柱に一体的に推進
- 【先進事例】海外顧客の要求に応える 統合マネジメントでEHSを推進
おすすめ記事
-
-
社長直轄のリスクマネジメント推進室を設置リスクオーナー制の導入で責任を明確化
阪急阪神ホールディングス(大阪府大阪市、嶋田泰夫代表取締役社長)は2024年4月1日、リスクマネジメント推進室を設置した。関西を中心に都市交通、不動産、エンタテインメント、情報・通信、旅行、国際輸送の6つのコア事業を展開する同社のグループ企業は100社以上。コーポレートガバナンス強化の流れを受け、責任を持ってステークホルダーに応えるため、グループ横断的なリスクマネジメントを目指している。
2025/11/13
-
リスクマネジメント体制の再構築で企業価値向上経営戦略との一体化を図る
企業を取り巻くリスクが多様化する中、企業価値を守るだけではなく、高められるリスクマネジメントが求められている。ニッスイ(東京都港区、田中輝代表取締役社長執行役員)は従来の枠組みを刷新し、リスクマネジメントと経営戦略を一体化。リスクを成長の機会としてもとらえ、社会や環境の変化に備えている。
2025/11/12
-
入国審査で10時間の取り調べスマホは丸裸で不審な動き
ロシアのウクライナ侵略開始から間もなく4年。ウクライナはなんとか持ちこたえてはいるが、ロシアの占領地域はじわじわ拡大している。EUや米国、日本は制裁の追加を続けるが停戦の可能性は皆無。プーチン大統領の心境が様変わりする兆候は見られない。ロシアを中心とする旧ソ連諸国の経済と政治情勢を専門とする北海道大学教授の服部倫卓氏は、9月に現地視察のため開戦後はじめてロシアを訪れた。そして6年ぶりのロシアで想定外の取り調べを受けた。長時間に及んだ入国審査とロシア国内の様子について聞いた。
2025/11/11
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/11/11
-
-
-
第二次トランプ政権 未曽有の分断の実像
第二次トランプ政権がスタートして早や10カ月。「アメリカ・ファースト」を掲げ、国益最重視の政策を次々に打ち出す動きに世界中が困惑しています。折しも先月はトランプ氏が6年ぶりに来日し、高市新総理との首脳会談に注目が集まったところ。アメリカ政治に詳しい上智大学の前嶋和弘教授に、第二次トランプ政権のこれまでと今後を聞きました。
2025/11/05
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/11/05
-





※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方