2016/10/30
世界から求められるEHS 環境、健康・衛生、安全を一体的に推進!
先進国とされる欧米との差はどうなのか? 日本企業はどう取り組んでいけばいいのか。
EHSの専門家である環境ワークス株式会社代表取締役の黒崎由行氏に聞いた。

Q1.なぜ、今、EHSが求められているのでしょうか?
日本でEHSが求められるのは、グローバル企業からの要求や監査があるからです。グローバル企業はこれまでの失敗で、サプライチェーンを管理しないとダメージを受けると学んでいるのです。欧米では訴訟や風評など潜在的なリスクの対策に環境および労働安全衛生を統合したEHSマネジメントを実施しています。例えば、欧州会議は2014年から従業員が500人以上の企業に非財務情報の開示を義務付けました。EHSはこの非財務情報の1つ。投資家が求めるのは今までのCSRのような「きれいな」情報だけでなく、企業の戦略や付加価値に結びつく情報なのです。
EHSをマネジメントしないと、日本の企業はグローバル企業のサプライヤーとしてやっていけません。
Q2.なぜ環境と安全、衛生の3つを一体的に管理する必要があるのでしょうか?
安全と衛生の親和性が高いのはイメージしやすいと思います。環境も含まれるのはリスクの発生源が同じだからです。例えば騒音の場合、構内なら職場騒音ですが、敷地境界を越えれば環境騒音となり周囲の環境へ大きく影響します。化学物質も作業場なら労働衛生ですが、施設外への放出なら公害にもなりえます。一体的に管理するのが合理的なのです。
Q3.EHSの取り組みはいつからされているのでしょうか?
EHSはCSRの概念ができるかなり前からすでにありました。私がはじめてEHSを知ったのは20数年前。外資系企業の日本法人が米国本社の監査を受ける時にサポートしたのがきっかけです。それまで日本の大手グループ企業で高いレベルで環境や安全衛生のマネジメントをやってきたと思っていましたが、米国本社の要求水準は桁違いでした。EHSの専門家が存在し、例えば、労働衛生なら大学院の修士課程レベルのスキルを有すインダストリアルハイジニストという専門的な資格があります。残念ながら日本でEHSを学べる大学はほとんどないので人材も不足しています。
Q4.日本と欧米の企業とでEHSの違いはありますか?
欧米のレベルが圧倒的に高いですね。EHSでグループをガバナンスするという考えが浸透しています。それは経営リスクを管理するため。例えば保護具の管理にしてもその違いは歴然としています。欧米なら化学物質のリスクアセスメントがしっかりとされ、そのデータをもとに専門家が保護具を選定する。マスクのフィットテストや教育、メンテナンスなどのプログラムを動かす仕組みがあります。しかし、日本ではなんとなく選んでいてマネジメントという視点がありません。同じ業務に携わる従業員でもそれぞれマスクが違うことがあります。技術的な裏づけがなく、それぞれがカタログから選んでいる状態でした。
Q5.なぜそれほど違いが生じるのでしょうか?
日本の企業にはガバナンス、リスク、コンプライアンス(GRC)の概念がまだ育ってないからです。EHSはGRCを高める手段の1つですが、日本でEHSというと環境マネジメントISO14001や労働安全衛生マネジメントOHSAS18001の統合認証という狭義の話になります。欧米の企業が求めているのは高いGRC。なぜなら潜在的なリスクを減らすための取り組みだからです。欧米の企業がサプライヤー監査でGRCを求めているのに日本の企業は省エネや廃棄物削減の説明をして話がかみ合わないのはよく見られます。労働安全衛生面では、日本の企業では法律をクリアすることが重要視され、実はそこで思考が止まっています。法律で事業所ごとの対応が定められていることもありますが欧米の企業なら自分たちでリスクを見い出してマネジメントしようとします。
Q6.欧米の企業が法律に関係なく率先してEHSに取り組めるのはなぜでしょうか?
訴訟リスクや風評リスクの影響が大きいと理解しているからです。潜在的な悪影響を減らすためのリスクマネジメントとしてEHSを使っています。日本では潜在的なリスクを減らすという「EHSの本質」が認識されていません。認証を取得してPDCAを実行していても、GRCの強化にはつながらないのです。
Q7.日本企業の課題はどこにあるのでしょうか?
一番の問題はあるべき姿を知らないこと。どうしてもEHSといえば省エネや廃棄物の削減、作業者を中心とした労働災害の防止だと思われています。
欧米では、EHS 各々の項目に対してプログラムが存在します。プログラムとは、リスクアセスメント、手順、教育、モニタリング、監査から構成される一連のマネジメントです。米国の聴力保護プログラムでは、聴力低下のメカニズムについて教育します。聴力低下が騒音の曝露によるものか、加齢によるものかしっかりと評価する仕組みも整っています。危険な化学物質を使うなら何メートル以内に安全シャワーや洗眼器を設置し、その水量まで決まっています。だから欧米の企業がEHSを監査する時はこういうプログラムの有無と運用を確認する。日本のISOやOHSASはマネジメントシステムの大きなPDCAしかチェックできていません。それでガバナンスが効くと言えるのか。残念ながら日本ではEHSのプログラムがほとんどありません。最近はグローバル企業からのサプライヤー監査でようやく風穴が開いてきた状況です。
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