ブリストルのレジリエント戦略

5つのフレームとは、住民(people)、場所(places)、組織(organizations)、繁栄と価値(prosperity and worth)、地域から世界へ(regional to global)です。住民を中心に円が広がっていくイメージです。この5つのフレームに共通して作用する項目として、さらに5つの項目――①平等、②住みやすさ、③持続可能性、④柔軟性、⑤協働を定めています。これらの5つは評価の視点と言ってもよいかもしれません。住民から世界に広がるフレームを縦軸に、平等から協働までの評価を横軸においていただくと分かりやすいかもしれません。

それぞれの評価軸について、戦略策定から50年後の2066年までになにを達成したいかが記されています。

【レジリエントシティに向けた5つの評価軸】
① 平等性
② 住みやすさ
③ 持続可能性
④ 柔軟性
⑤ 協働

① 平等性
2066年までに、差別の習慣をなくす、教育格差に直面している人に教育の機会を提供する、安全な住環境をすべての人に提供する、子供の貧困をなくす、すべての人が健康でいられるようにする、収入格差をできるだけなくす――といった目標が掲げられています。平等性や社会的な一体感を醸成することはブリストルのレジリエンスを高めていくために重要だと捉えています。生きていくのに必要な水・食料・エネルギー・住宅や雇用へのアクセスをできる限り平等に提供したいとの思いがあります。

② 住みやすさ
2066年までに、自然環境やグリーンインフラなどから、住民が多様なベネフィット(利益)を受けられるようにすることを目指します。すべての年代の住民に対して住みやすい街になるように、20分以内の移動時間ですべての行政サービスにアクセスできるような環境づくりをします。さらには、空気汚染を軽減します。住環境、特に街全体の自然環境を良くすることで、自然災害リスクの軽減を狙っています。

③ 持続可能性
限られた地球資源の中で、新たな行動様式を提案したり、デジタル技術を活用することで、2066年までに次の目標達成を目指しています――ごみゼロ都市・炭素中立都市・地球環境に責任をもち、フェアトレードの取組を促進する。経済活動における資源の活用最大限効率化するとともに、今ある自然環境を守ること、長期にわたって街のインフラを使い続けることができるように、一人ひとりの行動変容に働きかけています。

④ 柔軟性
リアルタイム情報の活用により、住民や行政のリーダーが効率的な意思決定をすることのできる環境づくりを目指します。行政情報を広く活用することで情報の非対称性をなくすこと、ソリューション開発のための新たなパートナーシップの開発に注力すること、地域のつながりや場所に限定された投資(スキルアップの機会提供や雇用機会の創出など)を行うことで日々の生活により柔軟性を持たせたいと考えています。

⑤ 協働
ブリストルが目指すレジリエントシティに最も重要なテーマが“協働”です。地域コミュニティを強化することにより信頼を醸成することが狙いです。2066年までに、ブリストル市民全員が共有できる価値を創り出したいとしています。その上で市民や地域コミュニティの自立を促し、行政サービスに頼らず地域で問題解決を実行することのできる“自己完結力(self-organized communities)”の向上を目指します。

レジリエンス戦略では、これらの評価軸にのっとって、5つの各フレーム―住民(people)、場所(places)、組織(organizations)、繁栄と価値(prosperity and worth)、地域から世界へ(regional to global)におけるアクションターゲットを定めています。

「レジリエンス」って何?を理解する試み

レジリエンス戦略を策定する以前から、ブリストルでは“協働”が行政におけるキーワードでした。2015年にグリーンキャピタルに選ばれたことも、日ごろ住民やステークホルダーとの協働を地道に積み重ねてきた結果と言えます。レジリエンス戦略が策定されたのは2016年の12月です。このときに重要視されたのが、「レジリエンス」についての関係者間での理解をいかに深めていくかでした。150にも上る会合やインタビューが実施され、17の公開イベント、21のワークショップが開催されました。これらの機会に参加したのは1600名余り。レジリエンス戦略のような地域全体に影響する計画を作るには、日頃の地道な活動が大切だということを教えてくれる好事例だと思います。

レジリエンス戦略そのものも未来志向となっています。目指すべき未来像に対してターゲットとなるフレームワークと、客観的な評価軸を別に定めているのが特徴的です。戦略自体に柔軟性やレジリエンスのエッセンスを持たせている点が他の都市と異なる点になっています。

(了)