トランプ政権や Brexit に左右される世界の調達リスク

EU離脱を伝える英デイリーテレグラフ紙（Photo by Fricker）

調達・購買分野に関する国際的な非営利団体である Chartered Institute of Procurement & Supply（CIPS/本拠地：英国）は、世界132カ国の調達リスクを四半期ごとに評価し、そのレポートを公開している（注1）。

評価手法は、信用調査会社Dun & Bradstreet社（D&B/本社：米国）がCIPSのために開発したもので、「CIPS Risk Index」と呼ばれている。D&B社では40人以上のエコノミストを動員して1994年から継続的に評価を実施している（注2）。

CIPS Risk Indexでは各国のリスクを次の観点から評価している。

写真を拡大 図１、1994年から2014年までの20年間におけるCIPS Risk Indexのスコアの変化（出典：CIPS Risk Index - A Global Retrospective ）

図1は1994年から2014年までの20年間におけるCIPS Risk Indexのスコアの変化である。2007から始まった世界金融危機や、それに続くユーロ危機などの影響で増加傾向が続いている。図1は2014年で終わっているが、最新のレポートによると2016年第四四半期のスコアは82.6ポイントなので、2013 年にピークとなって一旦落ち着いてから、再び増加傾向に向かったようである。

写真を拡大  図2、2016年第4四半期の、リスクを色分けしたヒートマップ(出典：https://www.cips.org/knowledge/procurement-topics-and-skills/risk-mitigation/cross-border-risk/#tabs-5 )

また図 2 は、各国ごとの最新の評価結果（2016 年第四四半期）を色分けしたものである。評価結果は 7 段階に格付けされており、最も高リスクの 7 はリビア、シリア、イラクなど、低リスクの 1 はドイツ、スウェーデン、ノルウェーなどとなっている。

各四半期ごとのレポート（毎回 12～14 ページ程度）には各地域ごとのサマリーが掲載されている。ちなみに 2016 年第四四半期のレポートにおいて、アジア太平洋地域のサマリーでは、事業継続に関連するものとして次のような情報が記載されている。

地域別のリスクの変化については、リスクが上昇傾向にあるのは「西および中央ヨーロッパ」、「東ヨーロッパおよび中央アジア」、「アジア太平洋」、「中南米」となっている。これらに対して「北米」、「中東および北アフリカ」、「サハラ以南のアフリカ」は前四半期と同程度という評価である。

しかしながら、レポートの最後に掲載されている解説では、内容の大部分は米国の政権交代や英国の EU 離脱といった話題に割かれている。

CIPS のグループ CEO は、「米国とカナダのリスク傾向は変わらないにもかかわらず、米国の大統領選は世界中の不確実性のレベルを引き上げた」と指摘している。

また D&B 主席エコノミストは「米国政府による通商外交政策の重大な変更に起因する不確実性が、今後しばらくの間、サプライチェーンのリスクに影響を及ぼす主な要因の一つとなる」、「英国の EU 離脱プロセスもまた、欧州のサプライチェーン環境を混乱させる可能性がある」と言及し、これらの動向に対する注意を促している。

製造業などサプライチェーンの影響が大きい業種においては、調達・購買戦略が BCM の中で非常に重要な位置を占めることになる。今回紹介させていただいたようなデータを継続的にウォッチしていくことが、事業継続の観点をふまえた調達・購買戦略に寄与するのではないだろうか。

（注 1） 四半期ごとのレポートの掲載場所
https://www.cips.org/knowledge/procurement-topics-and-skills/risk-mitigation/cross-border-risk/#tabs-4

（注 2）評価手法に関する説明は、下記リンク先にある『CIPS Risk Index - A Global Retrospective』に記載されている。
https://www.cips.org/Documents/cips-for-business/CIPS_RISK_INDEX_RETROSPECTIVE_WEB.pdf

（了）