新幹線基地を水没させた台風――10月の気象災害――
秋台風が生んだ記録的豪雨の真相
永澤 義嗣
1952年札幌市生まれ。1975年気象大学校卒業。網走地方気象台を皮切りに、札幌管区気象台、気象庁予報部、気象研究所などで勤務。気象庁予報第一班長、札幌管区気象台予報課長、気象庁防災気象官、気象庁主任予報官、旭川地方気象台長、高松地方気象台長などを歴任。2012年気象庁を定年退職。気象予報士(登録番号第296号)。著書に「気象予報と防災―予報官の道」(中公新書2018年)など多数。
2026/10/26
気象予報の観点から見た防災のポイント
永澤 義嗣
1952年札幌市生まれ。1975年気象大学校卒業。網走地方気象台を皮切りに、札幌管区気象台、気象庁予報部、気象研究所などで勤務。気象庁予報第一班長、札幌管区気象台予報課長、気象庁防災気象官、気象庁主任予報官、旭川地方気象台長、高松地方気象台長などを歴任。2012年気象庁を定年退職。気象予報士(登録番号第296号)。著書に「気象予報と防災―予報官の道」(中公新書2018年)など多数。
本連載で前回(先月)とりあげた1977(昭和52)年の沖永良部台風の後、気象庁による台風の命名はしばらく行われなかった。ただし、顕著な災害を引き起こした台風がなかったわけではない。たとえば、本連載で11回目(2020年9月)にとりあげた1991(平成3)年の台風第19号は、リンゴの産地青森県内で収穫予定のリンゴの約7割を落果させ、通称「リンゴ台風」と呼ばれるほどの大被害をもたらしたが、気象庁はこの台風に特別の名称を定めることはしなかった。平成の時代に特別の名称を与えられた台風はなく、令和の時代が幕を開けた2019年、2つの台風(第15号、第19号)が相次いで命名された。実に42年振りのことである。今回は、「令和元年東日本台風」と命名された2019年10月の台風第19号をとりあげる。
この台風は記録的な大雨、暴風、高波、高潮を伴い、各地に大きな被害をもたらしたが、中でも、長野市にある北陸新幹線の車両基地が水没し、新幹線車両10編成120両が水につかったショッキングなニュース映像を記憶している人も多いだろう。この台風は伊豆半島に上陸し、関東地方を通過したのだが、降水量の最も多かった太平洋側ではなく、山地を越えた長野盆地でこのような洪水被害が発生したことは衝撃的であった。本稿では、「令和元年東日本台風」を題材として、秋台風に伴う大雨について考える。
図1に、令和元年東日本台風の経路図を示す。10月5日3時にウェーク島の南西の海上に発生した熱帯低気圧は西へ進み、6日3時に南鳥島のはるか南方の海上で台風第19号となった。その後も西へ進みながら発達し、マリアナ諸島を通過中の7日21時には、中心気圧915ヘクトパスカル、中心付近の最大風速55メートル/秒の大型で猛烈な勢力を獲得し、以後、10日15時まで66時間にわたってこの勢力を維持した。9日頃から北上に転じ、10日から11日にかけて小笠原諸島の西の海上を北寄りに進み、北緯30度線を越えた12日0時以降は東進成分を持ち始め、同日19時前、大型で強い勢力で伊豆半島に上陸。その後、徐々に速度を増しながら関東地方と福島県を通り、13日未明に福島県沖の海上へ抜けた。台風はその後、さらに加速して北東進を続け、13日正午に北海道の南東海上で温帯低気圧に変わり、14日にはアリューシャン列島を通過してベーリング海へ進んだ。
次に、この台風に伴う降水量分布を確認する。図2は、雨量計と気象レーダーの観測値に基づいて解析された13日11時までの48時間降水量の面的分布である。色で階級分けして示されている。静岡県から関東西部にかけての山地に積算降水量480ミリメートル以上を示すピンク色の領域が見られるほか、三重県、栃木県、東北地方の太平洋沿岸、それに新潟県上越地方などに300ミリメートル以上を示す赤色の領域が広がっている。黒の小数字で記入されたピーク値を見ると、富士山付近では1300ミリメートルを超え、新潟・群馬県境付近でおよそ800ミリメートル、伊豆半島や長野県の八ヶ岳付近、静岡・山梨県境の身延山地、それに東京・埼玉県境付近の秩父山地では700ミリメートルを超えている。黄色で塗られた領域まで含めると膨大な面積におよぶが、これが積算降水量180ミリメートル以上なのである。これはものすごい水の量だ。この図は解析雨量を用いているから、1ミリメートル刻みの数値を額面どおり受け取ることはできないが、およそこの程度の降水があったと理解してよいだろう。この台風は、これほど多くの雨を降らせうる水蒸気を運んできたということだ。
図2には、台風中心の経路をも記入した。赤円で記入した3時間ごとの中心位置を見れば、台風が次第に速度を増しながら進んだことが分かる。ここで注目したいことは、台風中心の経路の左側(北西側)で降水量が多いことである。これは、この台風だけの特徴ではない。秋に本州付近にやって来る大型台風に共通して見られる様相である。つまり、これは典型的な「秋台風」の特徴のひとつと言うことができる。このような様相がどうして現れるのか、それを次に見ていく。
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