2016/11/06
事例から学ぶ
東京ドームをはじめ、遊園地やスパ、ホテルなどが集積する東京ドームシティは、都心にある唯一の大規模レジャースポットだ。子どもから大人まで年間3700万人以上の人々が訪れ1年を通して混雑する場所でもある。この来場者に加え、災害時には、行き場の無い帰宅困難者が押し寄せる。運営する株式会社東京ドーム(東京都文京区)にとって、防災や安全対策は、全社員が取り組む最優先課題となっている。
(編集部注:この記事は「リスク対策.com」VOL.49 2015年5月25日掲載記事をWeb記事として再掲したものです。)
2011年の事故と災害が転機に
東京ドームシティの防災、安全対策の転換点となったのは2011年。1月にジェットコースター型アトラクションの1つ「スピニングコースター舞姫」で死亡事故が発生し、3月には東日本大震災を経験した。
同社では、1月の事故後に、社内に事故調査委員会を設置して、安全・安心の確保と信頼回復に向け、全社を挙げて取り組んでいた。そんな中で起きたのが東日本大震災だった。
2011年3月11日、通常は稼働率9割を超える東京ドームだが、この日はイベントはなく、各種アトラクションも1月のジェットコースター事故の検証中で全て停止していた。そのため、地震によって東京ドームシティ内に多くの人が押しかけることはなく、大きな混乱もなかった。帰宅困難者を受け入れたのは子会社でもある東京ドームホテルのみ。ロビーなどを開放し約600人が利用したが、シティ全体からみれば概ね平穏だった。しかし、一歩外に出ると東京ドームシティに接する幹線道路の外堀通りと白山通りは、徒歩で帰宅する人たちであふれかえっていた。
「東日本大震災が起こり、帰宅困難者が発生する状況を目の当たりにして、急いで対策を講じる必要があると思いました」と同社営業管理部保安グループの角田正三氏は振り返る。
その言葉通り、同社では東日本大震災の直後から帰宅困難者対策に取りかかり、2012年以降、毎年、帰宅困難者対応訓練を行ってきた。
従業員ら700人が参加
ゴールデンウィーク直後の今年2015年5月8日、東京都文京区にある東京ドームシティで甲高い警報音が合図となり合同防災訓練が始まった。「こちらは防災センターです。緊急地震速報です。落下物などに注意して身の安全をはかってください。強い揺れに備えてください」と各施設内の館内放送が鳴り響いた。東京ドームの従業員やアルバイトなど東京ドームシティに勤務する約700人が参加したこの合同防災訓練の目的は、帰宅困難者対策だ。まず、災害対策本部が帰宅困難者を受け入れられるかどうかを意思決定。本部の決定に伴い、従業員が東京ドームシティ内にいる帰宅困難者を一時滞在施設まで誘導するというシナリオだ。
ちなみに、ドームシティ内で一時滞在施設に指定されているのは、ジオポリスやプリズムホールと呼ばれるイベントホールなど数カ所(具体施設名は非公表)。それぞれ1000人程度が受け入れられる見込みで、東京ドームシティ全体では最大で約5000人の帰宅困難者の受入れ準備を進めている。広大な面積を持つ東京ドームは、年間を通じて球団やイベント主催団体に貸し出しているため、基本的に施設利用者の保護が優先される。万が一、施設が空いていたとしても、構造上の問題や安全管理体制を構築するには巨大すぎることもあり、帰宅困難者を受け入れるのは難しいという。
叩き込まれた緊急時の対応
「ジオポリスへの安全誘導をはじめます」と拡声器から声が聞こえると、館内放送で一時的に東京ドームの22番ゲート前に集まった帰宅困難者役に扮した参加者の大移動が始まった。
蛍光色のウェアをまとった従業員に誘導され東京ドームの敷地の中を横切っていく。「お足元にお気をつけください」とと声をかけられた帰宅困難者たちはぞろぞろと階段を下り、一時滞在施設であるジオポリスに案内された。
誘導され続々と集まってくる帰宅困難者は受付で氏名と性別、住所を書き入場する。
今年2月に、内閣府や東京都でつくる首都直下地震帰宅困難者等対策連絡調整会議が一時滞在施設の運営ガイドラインを改定し、施設で事故やトラブルが起きても責任を負わぬよう免責事項を定め、帰宅困難者は受け入れ条件を承諾し、署名して利用する仕組みとなった。
ジオポリス内では、交通機関の運行状況表が掲示され、地面に座れるようブルーシートが敷かれ、応急救護所も用意されている。女性と男性の避難場所を分け、女性は専用フロアに誘導。これらの運営を従業員がすべて手分けをして、滞りなく実施した。
防災訓練を取り仕切る営業環境管理部保安管理グループのグループ長である佐久間康夫氏は「去年の反省点だった誘導が改善されスムーズに移動できた。今後はけが人役を増やして応急救護所で手当を受けるなど、より臨場感を増やし実践に近づけたい」と訓練を振り返った。
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