北アイルランドはIT産業の世界的ハブに

サイバーセキュリティー分野のアクセラレータであるthe London Office for Rapid Cybersecurity Advancement(LORCA)の共同運営を担い、Global EPICにも参加しているCSITは、大規模なグローバル・ネットワークを構築しており、近年、日本の国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)と研究協力覚書を締結しています。

造船、航空宇宙、繊維の産業分野で豊富な実績を持つ北アイルランドが、テクノロジー・サイバーセキュリティー分野で英国内有数のハブになるとは、20年前には考えられなかったかもしれませんが、時代が変わり、同地域では、将来ビジネス分野で必要とされる高い知識や技能を持つ人材を育成するため、産官学で提携し取り組んできました。

現在、北アイルランドは、米国のサイバーセキュリティー企業が世界で最も国際投資を行っている場所です(出典:fDi Markets FT 2020)。

サイバーセキュリティー分野における研究大学機関や国際企業から成るクラスターの貢献により、北アイルランドは、急速に同分野の世界的なハブとなりました。そして現在、北アイルランドで事業を行うサイバーセキュリティー企業は、高度な永続的脅威や国家安全保障、重要インフラ、資本市場、e-コマース、オンライン上における子どもの安全性などに関する専門領域を主な強みとしています。

北アイルランドのサイバーセキュリティー業界は、広範に急成長するテクノロジーセクターの一部です。サイバーセキュリティー分野に加え、ソフトウエア・エンジニアリング分野における高い専門性が、データ分析や高度なネットワーキング・システムなど、多くの専門領域の活性化に貢献しています。ベルファストがソフトウェア開発投資事業で、欧州トップの投資先都市として選ばれたことからも、いかに北アイルランドがビジネスをする上で魅力的な場所かということがお分かりいただけると思います。日本企業からも、楽天が2016年に北アイルランドにブロックチェーンラボを設立したのに続き、今年は楽天モバイルがクイーンズ大学ベルファストと共同でエッジコンピューティング・ハブを設立しています。

教育および学術研究は重要な役割を果たしています。例えば、クイーンズ大学ベルファストは、英国のトップレベルの大学で構成されるラッセルグループのメンバー校であり、世界の大学の上位1%にランクインされている名門校です。また、英国における大学研究評価(REF)の調査によると、CSITの母体となっているThe Institute of Electronics, Communications and Information Technology(ECIT)Intelligent Systems Research Centre(ISRC)を中心とした北アイルランドの大学研究機関による研究活動の実に72%が、世界をけん引している、あるいは国際的に優れているという評価を受けています。

53%が40歳未満という若く急成長する人口、英国内その他の地域や欧州、北米市場に迅速なアクセスが可能な絶好のロケーション、高度な専門性を持つ人材による高い費用対効果(人材コストはニューヨークより51%、ロンドンより42%、ダブリンより31%低い)、産官学が緊密に提携するテクノロジー産業のエコシステム。こうした要素により、北アイルランドはサイバーセキュリティー産業において多くの海外投資を集め、英国内外における影響力を高めています。

2019年1月には、北アイルランド開発庁(Invest Northern Ireland)日本事務所が開設され、日本企業による北アイルランドへの対内直接投資促進や北アイルランド企業による日本市場進出支援、さらに日本・北アイルランド間の企業・研究機関におけるビジネスパートナーシップの促進活動を行っています。詳細はウェブサイトをご確認ください。

次号では、英国サイバークラスターの一つを構成するウェールズにスポットを当てます。同地は半世紀近くにわたる日系企業の一大集積地であり、産学官連携のイニシアチブであるウェールズサイバークラスター、Cyber Walesは日本のサイバークラスターとの関係構築を推進しています。サイバー人材不足など、日本が抱えるサイバーセキュリティー問題に取り組むべく、ウェールズと日本の連携に向けた試みを紹介します。