首都直下地震が発生したら経営陣は冷静な判断ができるか(写真:写真AC)

前回は「BCPの実効性」の課題について考察しましたが、今回はBCPをより経営的な視点でとらえることをテーマにしたいと思います。

1.経営陣は有事でも経営のプロなのか

ほとんどの企業の経営者は、平時における経営のプロたちです。しかし、有事においてはどうでしょうか。

東日本大震災発生直後、東京に本社を置く企業のほとんどの社長や代表取締役は、失見当(軽いパニック)状態で、会社の方向性や指針などについて、事業部や管理部門の役員たちに指示することがまったくできなかったと悔恨しています。

1995年の阪神・淡路大震災は「関西という遠いところ」、いってしまえば対岸の火事であったはずの東京でしたが、東日本大震災の震度5強による揺れの激しさと鉄道交通機関の一斉運行停止は、企業トップにとって、首都直下地震の惨状を想像させるに十分なインパクトだったと思います。

2.もし首都直下地震が発生したら

もし首都直下地震が発生したら、その直後から、企業の社内では、危機管理やBCPへの切り替えがドラスティックかつオートマチックに開始され、対策本部が立ち上がると、自社の企業リソースであるヒト(従業員や経営陣)、モノ(オフィスやオフィス内の装備、備品など)、ジョウホウ(ITや書類など)の被災状況が収集されていきます。現場はあわただしく動くことになるでしょう。

ではその時、経営陣には何ができるのか。何をすべきなのか。

経営陣は何をすべきか
初動時の対策本部の行動計画には、通常、経営陣の仕事の定義はありません。本来、発災直後には従業員の生命第一、負傷者の救援救護活動が行われ、その後情報収集活動がはじまります。

少なくとも発災から2時間経過後、経営陣が最初の報告を受ける時、そこに事業継続に関連する内容はほぼ含まれておらず、あくまで自社の被災状況の把握が最初の経営陣の仕事となります。

発災後に経営陣はどう動く(写真:写真AC)

実際に顧客や取引先の情報を集めはじめるのは、2日目以降です。しかし、顧客や取引先の多くも甚大な被害が想定されるので、直接連絡することもできず、ほとんどの企業が初動フェーズとして定義している発災後3日間は、顧客や取引先の情報は入ってこないことを前提にすべきです。

そうした中、初動フェーズにおいて経営陣に求められるのは、残存している利用可能な自社リソース(ヒト、モノ、ジョウホウ)の把握と活用方法の検討です。とはいえ、有事の経営判断など今まで誰一人やったことがありません。また情報の量も平時よりもはるかに少なく、情報の持つ意味も違う。そのような状況で、利用可能な社内リソースの把握と活用方法など、考える余力もないかもしれません。