広島土砂災害:被災地へのサプライチェーン考察
軍事における兵站と産業に求められる顧客視点

広島県に限らず、毎年のように全国で豪雨災害により甚大な被害を受けながらも、なぜ被害を防げないのか、減らすことができないのか。危機管理のあり方を再考したいと思います。

■災害時の兵站とサプライチェーン 
「兵站(へいたん/ロジスティックス)」とは、戦闘地帯から後方の、軍の諸活動・機関・諸施設を総称したものと言われています。戦争における兵站には物資の配給や整備、兵員の展開や衛生、施設の構築や維持などが含まれます。もともと兵站の字義は「軍の中継点」であり、ロジスティックスは、ギリシア語で「計算を基礎にした活動」、ラテン語で「古代ローマ軍の行政官」を意味しました。さらに言うと、戦闘を実施する上で部隊の作戦行動を支援する戦闘支援、作戦行動を行う部隊の軍事的な機能を保持させる後方支援があるのですが、これらに比べて兵站はより広い範囲の概念となります。 

東日本大震災以来、マスコミに頻繁に登場してくるようになった言葉に、サプライチェーンがありましたが、この言葉も兵站の活動で使われていた用語です。「補給(Supply)」とは、戦闘部隊の物的な戦闘力を維持増進するため、作戦に必要な物資を適材適所に充足させることです。戦闘を遂行する上で求められる軍需品は量的に膨大であるだけでなく、多種多様、また補給所要は日々の状況に応じて変化するため、限りある補給能力を効率的に活用しなければならないのです。 

また、兵站における「輸送」、つまりTransportationは、ある地点から別の地点へと何かを移動させること、作戦上に必要な部隊や物資を適時適所に位置させることです。輸送は兵站の基本的な機能の1つで、迅速性と安全性を両立させ、限りある陸海空路の輸送手段を各種総合的に使用することですが、輸送を行う上で自然環境や敵による妨害が障害となります。輸送は敵の攻撃や気象状況の変化などを想定し、計画に融通性を備え、必要な警戒や防護を準備することが重要なのです。 

もう1つ、実業界でも軽視されがちな「整備(メンテナンス)」がありますが、部隊の戦闘力を維持するために装備の性能が完全に発揮できる状態・使用可能な状態に回復させる活動で、大変重要なことです。整備には、戦闘部隊自らが行う整備と、整備部隊による整備、外注による整備があり、必要な武器や兵器の稼働率を最大化するために必須なのです。 

最後に、「情報と備蓄」というのがあります。必要とされている部隊に必要な物資を無駄なく供給するために、合理的かつ効率的な情報管理が必要です。同時に、備蓄管理も補給活動を効率的に行なうために必須で、21世紀現在の大規模な近代型軍隊ではITによるデジタル情報ネットワークによって、できるだけ無駄を省いた補給が行なわれています。補給すべき物資の質と量は部隊ごとに異なり、兵站線に対する攻撃に対処するため地形・地図情報や周辺領域、住民、ゲリラ活動の有無などの情報収集も大変重要です。