2014/11/25
誌面情報 vol46
東京海上日動がBCP策定を無料支援

東京海上日動火災保険株式会社(以下、東京海上日動)高知支店は2010年、高知県や高知商工会議所、税理士の全国組織であるTKC四国会高知支部らと「高知県事業継続計画(BCP)策定推進プロジェクト協定」を締結した。県内の企業を対象に、BCPを無料で策定するというのが協定の主な内容。協定に至った背景と、現在の高知県内における企業のBCP策定状況を取材した。
高知県が「南海トラフ地震対策行動計画」を最初に策定したのは2009年2月。その目標の1つに「従業員50人以上の事業所・企業の50%がBCPを策定する」という項目があった。東日本大震災以前に県が策定した計画の中で、具体的に県内企業のBCP策定目標を掲げたものは珍しい。
東京海上日動高知支店長の古谷一氏は「地震のリスクに対する高知県の感応度は、当時からずば抜けている感があったが、具体的な策定に取り組む企業は多くなかった。私の前任者はその現状を踏まえ、県の商工労働部にCSR(企業の社会的責任)活動の一環としてBCP策定支援を応援したいと申し出た」と話す。
当初からプロジェクトは、県内の企業にBCPを認知させるセミナーの開催に加え、具体的なBCP策定支援に取り組んだ。対象業種は制限せず、旅館・ホテルや卸小売業などにも声をかけたという。高知商工会議所もさることながらTKCは、もともと顧客先の企業が豊富なため、東京海上日動としても人脈が広がった。セミナーに参加した企業には毎回アンケートを実施。その中で「ぜひ支援をしてほしい」と回答した企業に対しBCPの策定支援を行ったという。県らと協定を締結後も、基本的には同じ枠組みで、対象企業を募集している。
10ステップでBCP策定
BCPの策定支援にあたって、同社は中小企業庁が作成した中小企業庁BCP策定運用指針のテキストを、同庁の了解を得たうえでコンパクト化した。策定上の特徴は、BCP策定のプロセスを10ステップに分け、ステップごとに企業の社長や決定権者が出席したミーティングを行いながらBCP策定を支援することだ(表参照)。
例えばステップ1は入門診断。BCPとは何か、なぜ必要かを東京海上日動の担当者がレクチャーし、自己診断によって被害予想を自分で考えてもらう。ステップ2では発動基準や運用体制を明確化する。同時に次回までの検討課題を与え、それをステップ10まで繰り返すという内容だ。
複数の事業を営む会社は当然ながら中核事業を決定するのが難しい。古谷氏は「やはり策定にあたっては、社長や役員などリーダーとなって決定できる人物が出席することが重要」だという。策定までの期間は、頻度やかける時間にもよるが、2時間程度のミーティングを重ね、おおよそ3~4カ月で完成するところが多い。同社の支援により、2014年10月時点で195社が策定済み、もしくは策定中という状況だ。
経産省のモデル事業に採択
高知県と東京海上日動の取り組みは、昨年度の経済産業省による「事業継続等の新たなマネジメントシステム規格とその活用等によるによる事業競争力強化モデル事業」(グループ単位による事業競争力強化モデル事業)に採択された。
経産省の事業は、東京海上日動の関連会社である東京海上日動リスクコンサルティングが全体の企画・運営・実施・支援を担当し、全体のグループリーダーを、高知県を主体とするBCP策定推進プロジェクトチームが担当した。協力企業には、高知県内のBCM(事業継続マネジメント)先進企業として県内を中心にスーパーマーケットチェーンを展開するサニーマートを選定。国際規格であるISO22301の考え方を取り入れたBCMのレベルアップに取り組み、高知県内のベストプラクティスとISO22301の考え方を融合させた継続的なBCMの構築を目指した。
事業は年間を通じ、現状の確認、課題の抽出、BCPの見直しなどから始まり、南海トラフ地震が想定されている高知県の状況に即した訓練を実施。
その上で、改善意見をまとめ、BCM運用マニュアルを構築した。協力企業であるサニーマートからは、「作られたBCPから自分たちで作るBCPへ、という当事者意識が芽生えた」「断続的だったBCM手順がマニュアル化され、整理できた」などの意見が上がったという。
高知県とBCP策定推進プロジェクトチームらは、モデル事業でのノウハウを今後、県内企業に横展開し、県内企業のBCP・BCMの習熟度を高める支援活動に取り組んでいる。具体的には、モデル事業の成果も反映させた机上型事業継続訓練マニュアルを策定し、県内事業者に無料で提供している(以下からダウンロード可能:http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/010201/bckunrenmanual.html)。
また、積極的に南海トラフ地震対策に取り組む事業所を県が認定する「高知県南海トラフ地震対策優良取組事業所認定制度」も創設したという。

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