2015/01/25
誌面情報 vol47
(2)検証結果

ICSの観点から大阪市消防局と海外救助隊との活動を検証しましたが、ほとんどの項目についてクリアしていました。これは大阪市消防局が昭和62年から海外の研修生を10名受け入れる「救急救助技術研修」を行っていること、国際消防救助隊(International Rescue Team of Japanese Fire–Service 以下「IRT」という)の登録市として海外救助隊との活動を想定した訓練を常に行っていること、さらに4名の指揮支援隊員の中には、IRTとして海外派遣を経験した隊員がいたことも大きな要因の1つだと思いますが、何より不断の努力の賜物であると考えます。
なお、今回誌面の関係で触れておりませんが、宮城県南三陸町で海外救助隊と活動した緊急消防援助隊鳥取県隊の鳥取西部広域行政管理組合消防局(以下「鳥取西部消防」という)の活動についても同じ検証結果でした。鳥取西部消防でも、US&R隊(Urban Search & Rescue Task Force)の仕組みやマーキング方法などについての冊子を作成し、それをIRT登録隊員だけでなく全隊員で共有するなど不断の努力の結果が、海外救助隊との円滑な活動につながったのではないかと考えられます。
(3)検証を終えて
これまで、の観点から大阪市消防局と海外救助隊のICS活動について検証してきましたが、ICSの考え方というのは、本稿をご覧の危機対応部門の皆様にとってなんら特別なものではないと感じられたのではないかと思います。それは、国や機関は違っても消防、警察、海上保安庁などの危機対応部門における基本的な対応というのは変わらないからです。
例えば「事案規模に応じた柔軟な組織編制(Modular Organization)」における指揮(Command)、事案処理(Operation)、計画・情報(Planning)、後方支援(Logistic)、財務管理(Finance)という役割は当然必要ですし、「目標による管理(Management by Objectives)」における目標を定めることも当然必要です。もちろん、監督限界(Manageable Span of Control)のように新しい概念もありますが、ほとんどの異なる部分は、それを表す言葉とか表現、様式などであり、根本というか基本の対応方法は変わらないのではないでしょうか。
そうであるなら、ICSと日本の危機対応について比較し、同じ所は標準化し、統一用語(Common Terminology)や監督限界(Manageable Span of Control)などの異なるところ(新しい概念)については、知識として覚えておけば、今後ICSを採用している国との活動を更に円滑にできるのではないかと考えます。もちろん、知識として覚えるだけでなく様式などについては、危機対応部門の共通の制度として標準化できればいいのですが。
7 おわりに
前号で寄稿させていただきましたが、災害対策の標準化の1つの動きとして、平成26年4月22日に消防庁から、「大規模災害時の検索救助活動における統一的な活動標示(マーキング)方式の導入について」という通知が発出されています。
これは、東日本大震災での経験を踏まえ、今後、国内で発生した大規模災害時において、消防機関が自衛隊、警察、海上保安庁などの関係機関と連携して活動する現場で使用する統一的な活動標示方式を統一するという通知です。
大規模災害時、この通知を知らなければ、救助活動に支障が出ることになります。そのような意味でも今後、これら災害対策の標準化の動きについて、引き続き注目していく必用があります。
<参考文献>
(1)3・11以後の日本の危機管理を問う(神奈川大学法学研究所叢書)務台俊介(著),小池貞利(著),熊丸由布治(著),レオ・ボスナー(著),Leo Bosner(原著)
(2)近代消防No.612 「海外からの救助隊受入」合田克彰(著),辻美都利(著),赤川紀夫(著)

誌面情報 vol47の他の記事
おすすめ記事
-
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
-
-
-
-
-
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17






※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方