あなたの会社の危機対応力を鍛える新しいアプローチ

これまで「忍び寄る親の介護リスク」(全6回)、「現場実務者が失敗と成功から紡いだ本物の危機対応訓練」(全4回)の連載を通じて、多くの読者の皆様から反響をいただきました。編集部からは「読者勉強会で八重澤さんの記事が話題になった」との報告もいただき、大変嬉しく思っています。今回から始まる新しい連載は、これまでの経験を踏まえ、さらに実践的なアプローチを目指します。それが「旬ニュース×実践訓練シリーズ」です。

■なぜ「旬ニュース」なのか?
危機管理の現場では、教科書通りの災害は起こりません。現実に起こるのは、複数の要因が重なった複合災害です。そして、それは意外にも私たちの身近なニュースの延長線上で発生することが多いのです。

そこで、旬のニュースをもとに、「明日にも起こりうる」リアルなシナリオをつくり、皆様にタイムリーにお届けします。すぐに社内で実践できる訓練を毎回紹介させていただきます。

■この連載で得られるもの
・すぐに使える訓練シナリオ:実際の社内研修でそのまま活用可能
・思考プロセスの習得:正解を覚えるのではなく、判断力を鍛える
・組織力の向上:個人ではなく、チーム・組織としての対応力
・継続的な改善:一度きりではなく、段階的にレベルアップ

■今後の展開について
この連載は「旬ニュース」をベースとするため、その時々の社会情勢に応じてテーマを決定いたします。

例えば:
・台風シーズンには「大雨×交通麻痺×重要会議当日」
・サイバー攻撃のニュースが続けば「ランサムウェア×リモートワーク×顧客情報」
・地震発生後なら「余震×高層ビル×外国人来客対応」
・感染症流行時には「パンデミック×人手不足×年度末繁忙期」

各回とも、実際の企業研修で使用できる訓練資料(PDF)も併せて提供いたします(最終ページからダウンロード可能)。この連載記事を読むだけでなく、是非あなた自身が、あるいは仲間も一緒にシナリオに基づく訓練を体験してみてください。

それでは、記念すべき第1回目を始めましょう。
 

猛暑×停電×就業時間が重なったとき
~あなたの会社は大丈夫でしょうか?~

イメージ(Copilotにより作成)
【旬なニュース】
7月に入り、連日の猛暑により、首都圏の電力使用率がピーク時に90%を超える日が増えています。また、気温の上昇に伴い急な豪雨や雷雨が発生する事例が相次いでおり、停電リスクが高まっています。

 

もし皆さんの会社が就業時間中に長時間停電に見舞われたら、どのような対応を取られるでしょうか。単なる停電ではありません。猛暑の中、空調が停止し、エレベーターが動かず、インターネットも使えない状況で、数百人の従業員と来客の安全を確保しながら事業を継続する—。これは決して「想定外」ではなく、現実に起こりうる状況かもしれません。

今回のシナリオ

【前提条件】
・都心オフィスビル(地上12階、従業員350名)
・天候:晴天、気温38度、湿度75%
・時刻:平日午後2時(業務繁忙時間帯)
・状況:重要顧客との契約会議進行中、海外とのオンライン会議複数同時開催

【シナリオ】
【14:15】 近隣の送電設備メンテナンス工事でケーブル損傷が発生し、ブロック全体で停電。非常用照明のみ点灯。エレベーター全基停止。
【14:20】 空調設備完全停止。館内温度上昇開始。インターネット回線が不安定になり、クラウドサービスへの接続に支障。
【14:25】 9階会議室の高齢顧客(70代男性)が体調不良を訴える。8階では妊娠中の社員が気分を悪くする。
【14:30】 電力会社から「送電設備修理のため復旧まで最低2時間」の連絡。
 

追加で発生する課題
・取引先から緊急対応要請の電話が殺到(携帯電話のみ)
・クラウドサービスへの接続不安定により業務システム使用不可
・ビル管理会社の非常用発電機は照明のみで空調・WiFi機器は対象外
・近隣ビルでも同様の停電が発生し、避難場所の確保が困難