日本企業が「治安リスク保険」を購入するには

それでは、日本企業は「治安リスク保険」の購入ができないのでしょうか?

答えは、「できます」です。

日本の保険会社が「治安リスク保険」の販売を行っていないのは、治安リスクが巨額の損害につながり自社では持ちこたえきれないからです。台風や地震など広域損害につながるようなリスクに限らず、保険会社はほとんどの種類の保険において巨額損害に備えて再保険を手配しています。支払準備金の取り崩しと再保険からの回収によって、2018年の台風21号や2019年の台風19号など大きな損害が発生した年でも、保険会社は赤字にならずに済んでいるのです。

ところが「治安リスク保険」のような特殊なリスクでかつ巨額損害が発生する保険は専門的ノウハウが必要であり再保険の引き受け手も限られているので、日本の保険会社は再保険手配をしていません。すなわち、再保険手配ができないから日本の保険会社は「治安リスク保険」の販売をしていないのです。

逆を言えば、日本の保険会社も再保険手配ができれば日本企業に「治安リスク保険」の販売ができることになります。

再保険の引き受け手はほとんどが海外の再保険会社であり、多くの再保険会社が集積するロンドン、バミューダ、シンガポールなどで再保険マーケットが組成されています。ウイリス・タワーズワトソンはこれらの市場から再保険手配を行って日本企業に対しても「治安リスク保険」を提供しています。まだ少数派ではありますが、実際にこういった手法により「治安リスク保険」をすでに購入している日本企業もあります。

第2、第3のミャンマーに備えて

現在ミャンマーに進出している企業にとっては「治安リスク保険」は喫緊の課題だと思います。本稿執筆時点ではミャンマー所在リスクも再保険手配は可能ですし、実際にウイリス・タワーズワトソンはクーデター後にもミャンマー所在リスクの新規保険手配を行っています。ただし、情勢は刻一刻と変化しておりますので、検討される場合には早めに始められることをお勧めします。

一方、ミャンマーには拠点はないもののグローバルに事業を展開している企業にとっては、第2、第3のミャンマーが世界中のどこで発生するか分からない状況であることを十分に理解する必要があると思います。

ミャンマーのクーデターは総選挙により国軍派が壊滅的な敗北を喫し、選挙に不正があったとして大勝したNLD幹部を拘束したことが直接の理由といわれています。しかし、なぜ国軍派が大敗したのかと言えば、その背景にはコロナによる経済停滞と行動制限が有権者にさらなる民主的な政治を求めさせ、国軍の影響力を排除したいという欲求が選挙結果に現れたのでしょう。

コロナの影響により、ミャンマーだけでなく世界中の治安リスクが悪化しています。経済停滞による生活困窮者の増加と行動制限による社会不安の増大がマグマのように蓄積し、何かのきっかけで噴火してしまう可能性が世界のあらゆるところで高まっているのです。いくつかの例を挙げてみましょう。

・下火になっていたタイの反政府運動がタブーとされていた王室批判を行うまでに膨れ上がってきた。
・コロナによる死者が30万人を超えたブラジルではボルソナロ大統領に抗議の声が上がっている。
・オランダで夜間外出禁止令に反発した群衆が暴徒化、さらにはコロナ検査場で爆発事件発生。
・北朝鮮がミサイル実験を再開。コロナによる経済封鎖打開のための示威行為と思われる。

これらはどれも、何かのきっかけで爆発してしまう火種です。そして世界中に同じような火種がくすぶっているのです。

グローバルに事業を展開する企業は世界のどこで発生するか分からない治安リスクに対しても対応できるよう準備をしておく必要があります。「治安リスク保険」はその準備の一つと言えるでしょう。自社の進出している地域の治安リスクを検証し、そのリスクを保有するのか?移転するのか?しっかりとした社内議論を行うことを強くお勧めします。

ウイリス・タワーズワトソンでは2021年5月19日(水)に「治安リスク保険」のセミナーを開催します。参加された方々がしっかりとした社内議論を行うための参考になるようなセミナー内容とする予定です。メールマガジンを通じて「リスク対策.com」の読者の皆さまにもご案内が届きますので、ご興味のある方はぜひご参加ください。