2018/04/16
熊本地震から2年、首長の苦悩と決断
真っ赤に染まる熊本城
突き上げるような揺れでした。前震が発生した時は、市役所近くの繁華街で職員の歓送迎会を行っていたのですが、「緊急事態」ということですぐに解散し、走って市役所に戻りました。その途中、私の目に映ったのは、割れたウインドウガラスや壁のタイル、そして、赤い土煙をあげる熊本城――これはえらいことになったと、とても恐ろしい気持ちになったのを覚えています。その後、市長室に着きテレビのニュースをつけた私は、熊本に「震度7」の文字を見て、衝撃とともに愕然としました。
その頃、災害対策本部には、残業をしていた職員などがすでに集まり始めていました。被害の全体像は全く把握できておらず、手分けをして被害状況の収集に取りかかりました。
阪神・淡路大震災の経験
阪神・淡路大震災の時、私は内閣官房副長官の秘書として総理官邸にいました。平成7年1月17日の朝6時、目覚ましとしてかけていたラジオから「関西地方で大きな地震が起きた」というニュース速報が流れ、これは大変だと思いながらも、官邸では被災の全体像がなかなか把握できていませんでした。ですから、熊本地震が発災した時、私は真っ先に「待っていても現場の情報はつかめない」と考えました。
とにかく早く情報を集めて、それをトリアージしながら全体像を探っていくということと、次に何が起こるかを予測しながら、火災は起きていないか、どのくらいの建物が倒壊していてその下敷きになっている人や行方不明者が何人いるのかということ、これらをつかんでいかなければならないと思いました。
夜が深まりどんどん情報を把握しにくくなっていく中、どうすればいいかと考えた私は、職員にタブレット端末を持って市民の避難状況を確認しに行かせることにしました。Skypeで現場の映像を送るよう指示し、送られてきた映像からは、すでにたくさんの人が庁舎近くの白川公園に避難していることや、毛布が足りない状況になっているということがわかりました。

緊急時であることを理解させる
多くの職員が動揺していたので、意図的に、大きい声・強い口調で指示をしました。職員が何をしていいか分からないという状態の中で「すぐに動かなければいけない緊急事態だ」ということを理解させる必要がありました。非常事態にトップが声を張り上げ対応する姿を見せる、という若干演出的なものもありました。
また、報告を受けた被害より「実態はもっとひどいはずだ」と常に思うようにしていました。報告に対して、「そのくらいの被害でよかった」と安心するのではなく、「現場はもっと大変なことになっているはずだ」と思えば、対応は間違えないと思ったのです。
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